帯にこう書いてありました。
「2016年に殺人発生件数が、シリアに次ぐ2位となったメキシコ。何が起きているのか」
経済成長が続く中米の大国、メキシコの治安が悪いことは知っていましたが、本書を読み、改めてその深刻な状況を知ることができました。
筆者は、身の危険を感じながら、メキシコ各地を飛び回ってたんねんに取材し、インタビューを重ねていきます。
そこで繰り広げられているのは、治安の悪化を超えた「麻薬戦争」とも言うべき事態でした。
家族、友人を殺された数えきれないほどの人々の悲しみ、苦しみ、怒りが伝わってきます。
殺人とともに、膨大な数の失踪者が出ているという事態も深刻です。
その多くは女性で、麻薬カルテルによって誘拐され、性産業に売り飛ばされている実態があると見られます。
「麻薬戦争」は、社会の矛盾と密接にかかわっています。
麻薬組織が地域社会を牛耳っている地域では、貧困層の少年たちは、麻薬カルテルの下部組織に取り込まれやすいからです。
まともな仕事は少なく、多くの者は、家族、親せきなどを頼って、米国を目指します。
麻薬カルテルは、政党、中央政府、州政府、自治体、連邦警察、地方警察、軍隊の中にも入りこんでいます。
被害者が声を上げても、警察がなかなか捜査や調査に乗り出そうとしない実態が描かれます。
「麻薬戦争」が政治構造に根差していることがわかります。
閉塞感と諦めの中にあって、声を上げ、行動に移している人々がいます。
今年の7月1日には、大統領選挙が予定されています。
メキシコ国民がどのような選択をするのか、そしてその選択が困難な状況を変えていく動きにつながるのか注目されます。