久元 喜造ブログ

池上永一『ヒストリア』


壮大なスケールのファンタジーで、わくわくしながら読みました。
1945年3月23日、沖縄本島の戦場で物語は始まります。
米軍は沖縄に殺到し、主人公の知花煉は家族を失い、魂(マブイ)までも落としてしまいます。
生き残った彼女は、米軍占領下でしたたかに生きていくのですが、米軍から追われる身となり、他人になりすまし、ボリビアに渡ります。

物語の大半は、ボリビアで展開されます。
沖縄から移住した人々には過酷な日々が待っていました。
うるま植民地、パロメティーヤと流転し、紆余曲折の末にコロニア・オキナワにたどり着きます。
彼女はボリビアの人々の中に同志を見出し、伝染病や洪水など次々に襲い掛かる試練に立ち向かい、成功と挫折を繰り返します。
プロレスの女王、謎の占い師など多彩な人物が登場し、物語はダイナミックに、そして意表を突く形で進みます。
一方、マブイであるもう一人の知花煉は、キューバに渡り、革命家チェ・ゲバラの恋人になり、ボリビアで彼の最期を見届けることに・・・
二人の知花煉はときに遭遇し、交錯し、相手になりすましたり、物語の展開を複雑なものにします。
キューバ危機が想像逞しく描かれ、「死の天使」メンゲレのようなナチスの残党まで登場し、死闘を演じるのでした。

ボリビアの風俗、人々の気質、地域社会のありよう、それに料理までもが実に細かく描かれています。
産経新聞に掲載されていた池上永一さんのインタビュー(2018年1月14日)を読み、納得しました。
『ヒストリア』には15種類ものボリビア料理がちりばめられているそうです。
破天荒なストーリーの中に、珍しいレシピなど知られざるボリビアが生き生きと描かれているのも、本書の魅力となっています。