久元 喜造ブログ

松宮宏『まぼろしのお好み焼きソース』


前に読んだ松宮宏さんの小説『まぼろしのパン屋』(2017年6月8日のブログ)は、東京の郊外が舞台でしたが、今回は、神戸の長田が舞台です。
神戸市立青葉小学校の新任教師、磯野祥子が出勤初日に、商店街にある「間口ソース店」に入り、遅刻したところから、物語は始まります。
お好み焼きとソースがこれでもか、というほどに登場するB級グルメの物語です。

長田では焼きそばをそば焼きと呼ぶ。お好み焼きにそばを載せればモダン焼き、ご飯と切れ切れにしたそば麺を混ぜればそば飯だ。すべて長田が発祥である。

松宮さんは、丹念に長田を取材され、温もりと人情豊かな世界を描き出します。
現実には考えられないような人々も登場しますが、長田の日常が生き生きと描かれているように感じました。
読み進めると、新長田の合同庁舎が登場したのには、驚きました。

震災から20年経つが、長田の復興は道半ばである。ここは政治の出番と、市長は知事と決断し、長田に県と市の税金関係の合同庁舎を作ることを決定した。3年後、新しい庁舎は稼働をはじめ、長田は千人の公務員が通う町になる。昼飯代だけでも、年間3億円の経済効果があるという試算だ。しかし昼飯だけではいけない。

まったくそのとおりです。
新長田駅周辺には、お好み焼き屋さんをはじめ、味のあるお店がたくさんありますから、職員のみなさんには連れ立って夜もうろちょろしてほしいと思います。
個々の職員の事情もあり、無理強いはできませんが、千人の職員が「長田地域おこし応援団」になって、地域のみなさんと会話を交わし、長田の街づくりのお手伝いをしてほしいと願いながら、本書を読み終えました。