久元 喜造ブログ

上田 早夕里『夢見る葦笛』


神戸ゆかりの作家、上田早夕里さんの作品を初めて読みました。
たいへん面白かったです。

10編の短編が収められています。
第1話「夢見る葦笛」は、老祥記の豚饅も出てきますが、街中にイソギンチャク人間-イソアが増殖していく不気味な物語です。
街中で美しい調べを奏でるイソアに魅了された人々は、やがてイソアに変わっていきます。
イソアが増え続け、親友までもがイソアへの変異に希望を託そうとするとき、主人公の亜紀は、イソアたちに対して壮絶な闘いを挑みます。
その先に破滅が待っていることを知りながら。

第2話以下でも、帯にあるように「誰も見たことがない、驚異に満ちた世界」が現出します。
片田舎を舞台にした呪術的異形の世界、人間の脳と人工身体の両方を持つシム、宇宙開発用人工知性など。

とてつもなく恐ろしい世界が描かれるのは、「滑車の地」。
地球上は冥海で覆いつくされ、そこには、泥棲生物、泥鰻、泥蠅、「人間の腕など簡単に切り落とす」泥鯱蟹、泥蛇など棲んでいます。
人間は、鋼柱の上の塔に追いやられ、滑車で移動します。
そして、次々に冥海に落下し、動物たちの餌食となるのです。

著者は、異形の世界のグロテスクを描きながら、その中で、もがき苦しみ、あるいは、未知の世界への希望を見出す人間の姿を描きます。
その心理は、驚くほど現代の私たちに近いものです。
途中までは、科学テクノロジーが行き着いた先にある「逆ユートピア」が描かれているように感じたのですが、そうとも決めつけられない複雑で不思議な世界が次々に現れ、興奮の連続でした。
想像力の無限の飛翔を感じることができた、豊かな時間でした。