久元 喜造ブログ

吉川洋『人口と日本経済』

161215
本書の結論は、人口の減少が経済を衰退させることはなく、人口減少下でもイノベーションにより経済は成長し続ける、という点にあります。

筆者は、まず歴史を鳥瞰図的に眺め、人口がある時代には急激に増え、逆に減少する時代もあったことに触れた上で、明治以降の我が国においては、「過剰人口」が大きな問題であったことを指摘します。
戦前は、過剰人口問題を解決するため、移民や海外進出が奨励されました。
戦後間もなく、大内兵衛など我が国を代表する経済学者が執筆した『日本経済序説』には、「戦後の過剰人口問題は、一段とその重要性を加えた」という指摘が見られます。

その上で、アダム・スミス、シュンペーター、とりわけマルサスの人口論が詳しく取り上げられます。
ケインズ、ヴィクセル、ミュルダールの人口論も紹介されていましたが、とりわけ、スウェーデンの経済学者、ミュルダールの
「人口政策の一般的方法は、個々人や子どものいない家庭から子どものいる家庭への所得移転として描写されるだろう」
という指摘は今日的にも有効です。

筆者は、経済成長の必要性を強調し、「人口減少ペシミズム」を克服するため、企業のイノベーションへの挑戦を促します。
所得水準が高く、マーケットのサイズが大きく、超高齢社会の日本は、日本企業に絶好の「実験場」を提供すると。

すでに企業に対しては、イノベーションを促進するための税制や融資、助成制度が用意されており、それらが十分に機能していないのはなぜか、さらに何が求められるのかについて示唆が欲しかったところですが、この辺は、政治や行政にいる者が分析を行い、政策提案を行う責務を負っているとも感じました。(文中敬称略)