久元 喜造ブログ

高原英理『不機嫌な姫とブルックナー団』

takahara
ジュンク堂にあったので、何となく購入しました。
不思議なタイトルと装丁が妙に気になったからです。

主人公の代々木ゆたきは、図書館に勤める非正規職員の女性で、ブルックナーのファンです。
サントリーホールのコンサートで、ひょんなことから、ブルックナーのオタク男3人組と出会います。
彼女は、違和感を覚えながらも、次第に3人組と心を通わせるようになり、「ブルックナー団」の存在を知るようになります。

「ブルックナー団」とはどのような人たちか。
・ブルックナーの交響曲は、全曲、全楽章ごとに主題の区別ができる、
・ブルックナーの版ごとの違いがすべてわかる。
・ブルックナーの弟子の名前を5人以上言える。
・・・・・
私もときどきブルックナーの交響曲を聴きますが、まったくレベルが違いすぎます。

物語は、彼女と3人の「ブルックナー団」メンバーとのやりとりを通して、ブルックナーの音楽と人間像を浮かび上がらせていきます。
そして、ブルックナーという偉大な作曲家がいかに不器用で、臆病で、生き方が下手な人物であったかが、ワーグナーとの出会いなどを絡めながら綴られます。

彼らは、ブルックナーの音楽を執拗に攻撃し、彼につらく当たった同時代の高名な音楽批評家ハンスリックを敵とみなし、ハンスリックのような権威的な人々を「ハンスリック団」と呼び、嫌悪します。
学生時代に読み、まったく共感を覚えなかったハンスリックの『音楽美論』を思い起こしました。
161203-2

とても温かな読後感でした。
本書を読んだ後、坂入健司郎指揮、東京ユヴェントス・フィルハーモニーが演奏する第8交響曲をかけると、これまでとは異なる響きが聞こえてくるような気がしました。