「マインドコントロール」という言葉は、オウム真理教による犯罪以降、ひんぱんに用いられるようになりましたが、今日さらに深刻な事態に陥っているように感じます。
この点について、筆者は、端的に警告を発します。
「孤独に暮らすことが当たり前になり、同時に、メディアからの大量の情報に日夜さらされて暮らす現代人は、感覚遮断と情報過負荷という両方の危険に直面していることになる」
たとえば、小さな集団の中で外部と遮断された状況にいると、特定の考えだけを絶えず注ぎ込まれれば、それが自分自身の考えなのだと認識されるようになります。
巧みに、その集団への愛着や指導者への尊崇に身を委ねると、集団の期待と異なる行動はできなくなり、仲間への裏切りは、自分の存在を傷つけます。
このような現象は、カルト集団やテロ組織のみならず、会社などでも見られると筆者は言います。
たとえば、長時間サービス残業が常態化した会社では、社員は、慢性的疲労を抱える中で、主体的な判断力を持てなくなっていき、ノーと言えない状況の中で、結局は使い捨てにされていくのです。
本書は、今日「マインドコントロール」と説明されている事象に関する歴史的考察の上に、CIAなど情報機関が捕虜から情報を得るために駆使した手法を含め、豊富な事例を提示してくれます。
テロ組織に身を投じる若者が後を絶たない欧米の状況は、社会の矛盾を解決するだけでは不十分で、「マインドコントロール」の餌食にされやすい若者一人一人に対する見守りとケアが必要なのだとすれば、それは気が遠くなるような努力が求められることでしょう。
眩暈のようなものを感じました。