久元 喜造ブログ

原宏一『握る男』

nigiru
後世から「バブル」と呼ばれる時代がありました。
1980年代後半から1991、92年くらいまでとされています。
この小説は、この時代を舞台に、寿司職人見習いからのし上がり、破滅していった男の物語です。
文句なく面白かったです。

バブルの片鱗がまだ見えない1981年冬、両国の「つかさ鮨」に、当時21歳の金森が入店します。
そして、ほどなく16歳の少年が後を追うように入ってきます。
あだ名はゲソで、背丈は子どもほど。
童顔というより幼顔の彼は、愛嬌があることから周りから可愛がられるようになり、店内で一目置かれるようになります。
「握り」の技術も抜群。
卑怯な仕掛けも駆使しながら、店内でのしあがり、横綱龍大海にも気に入られる一方、その弱みもしっかり「握る」のです。

ゲソの決まり文句は、相手の「キンタマを握る」こと。
握りさえすればあとはこっちの思うがまま、とうそぶくゲソは、常に策略をめぐらし、上を目指します。
ゲソと金森の上下関係は、ある日逆転、金森はゲソの側近として徹底的にこき使われることになります。

ゲソの欲望は肥大し続け、外食産業のみならず、生産者団体を支配するまでになります。
その一方で、事業の拡大と支配欲に毒され、金森をはじめ部下には無理難題を押し付け、狂気にさいなまれていくゲソに待っていた運命、そして、物語の最後で明らかになる意外な事実とは・・・

バブルの時代がよく描かれている小説です。
同時に、人間の欲望、抗いがたい運命、組織の成長、飛躍と破滅、人情の機微など、時代を超えた人間ドラマが展開されていました。
市役所の若手のみなさんにも読んでほしいと思います。