久元 喜造ブログ

杉原千畝氏は国の方針に反したのか?

杉原千畝氏が「日本政府の指示に反し日本通過ビザを発給し続け」た、と書いたところ(2月5日のブログ)、フェイスブックに、日本はユダヤ人対策要綱を定めていて、杉原氏は日本政府の方針に従ってユダヤ人を助けたのであり、政府の指示に反して助けたわけではない、という趣旨のコメントをいただきました。

この点について、わかる範囲での情報を追加したいと思います。

政府は、昭和13年2月6日、「猶太人対策要綱」を定めました。
この要綱では、「独伊両国ト親善関係ヲ緊密ニ保持スルハ現下ニ於ケル帝国外交ノ枢軸タルヲ以テ盟邦ノ排斥スル猶太人ヲ積極的ニ帝国ニ抱擁スルハ原則トシテ避クヘキ」としたうえで、「之ヲ独国ト同様極端ニ排斥スルカ如キ態度ニ出ツルハ唯ニ帝国ノ多年主張シ来レル人種平等ノ精神ニ合致セサルノミナラス現ニ帝国ノ直面セル非常時局ニ於テ戦争ノ遂行特ニ経済建設上外資ヲ導入スル必要ト対米関係ノ悪化スルコトヲ避クヘキ観点ヨリ不利ナル結果ヲ招来スルノ虞大ナル」という事情にかんがみ、来日するユダヤ人に対しては、「一般ニ外国人入国取締規則ノ範囲内ニ於テ公正ニ処置ス」という方針を決定しています。

こうした当時の方針を踏まえ、外務省は、質問主意書(平成18年3月24日)において、「杉原副領事に対しては、「通過査証は、行き先国の入国許可手続を完了し、旅費及び本邦滞在費等の相当の携帯金を有する者に発給する」との外務本省からの指示があった」としたうえで、「杉原副領事は、この指示に係る要件を満たしていない者に対しても通過査証を発給したと承知している」と回答しています。

この主意書を前提にすると、杉原氏は、本国の指示に反してビザを発給したと考えて差し支えないように思われます。