久元 喜造ブログ

「きょうは帰れない」 ― 私が好きな曲② 

1982年にリリースされた加藤登紀子のアルバム「愛はすべてを赦す」の中に入っている曲です。
1920年代、30年代の曲を集めたアルバムで、とても魅力的な曲があつめられています。
青森にいたとき、奥羽線や五能線に乗り、車窓から景色を眺めなら、ウォークマンでこのアルバムを繰り返し聴いていました。
ピアノは、坂本龍一です。

「きょうは帰れない」には、「ポーランドのパルチザンの歌」というサブタイルがついています。

きょうは帰れない 森へ行くんだ
窓辺でぼくを 見送らないで
君の眼差しが 闇を追いかけ
涙に濡れるのを 見たくないから
涙に濡れるのを 見たくないから

まるで、映画のシーンを見ているような歌詞ですね。
パルチザンの若者が、恋人の部屋を抜け出て、庭に下り立ち、夜の闇に消えていく。
振り返って窓辺を見れば、恋人は、自分がどこにいるのだろうと、視線をあちこちに動かし、探している。
闇に消え、森にわけいっていく自分の姿は、彼女には見えないが、自分には、涙に濡れる彼女の姿が見える、
そんな恋人の姿を見るのがつらいので、もう、窓辺で自分を見送らないでほしい ―
そんな内容の歌です。

パルチザンの運命は、過酷でした。
多くの同志が、戦いの中で斃れていきました。
そして自分の運命は、主人公自身がよく自覚していたようです。
3番の歌詞です。

もしも春までに 帰らなければ
麦の畑に 種を蒔くとき
僕の骨だと 思っておくれ
麦の穂になって 戻った僕を
胸に抱きしめて 迎えておくれ
胸に抱きしめて 迎えておくれ

もう恋人のもとに戻れないかもしれない・・・
それだけに、別れはつらいものだったことでしょう。
加藤登紀子は、悲しみにくれながら、戦いに赴く若者の心情を、哀感を込めて歌い上げていました。