久元 喜造ブログ

「地方自治は、民主主義の学校」

広く流布されている言葉は、ときどき、原典に当たってみることも有益です。
たとえば、「地方自治は、民主主義の最良の学校、その成功の最良の保証人」という格言です。
この言葉を残したのは、ジェームズ・ブライス(1838-1922) ― 駐米大使も務めたイギリスの政治家・外交官でした。

ブライスは、1870年に初めてアメリカを訪れて以来、その社会に魅了され、1888年、アメリカを詳細に叙述した大著「アメリカ共和国」(The American Commonwealth)を出版しました。

ブライスは、「アメリカ共和国」の中で、ニューイングランド地方におけるタウンミーティングについて紹介しています。
タウンミーティングでは、住民が、学校の建設、道路の整備、地域の清掃、共同牧場の管理などを議論し、そのための費用を住民がどのように分担するかも含め、自分たちが決定していました。
ブライスは、こうしたタウンミーティングのあり方を、政治において、汚職や無駄遣いを防ぎ、注意深さを促すとともに、満足度を高める最良の仕組みだと考えました。

晩年、彼は、アメリカを含め、さまざまな国の政治体制を見聞した経験をもとに、「近代民主政治」(Modern Democracies)を著します。
その中で地方自治の意義について改めて論じ、冒頭の有名な言葉を残しました。
地方自治が民主主義の「最良の学校」であるのは、地方自治が「住民に対して、共同の課題についての共同の利害意識を持たせ、また、共同の課題が効率的・公正に処理されるよう注意を払い、個人・共同体としての義務を自覚させる」とともに、「地方自治制度が、常識、道理、判断力、そして、社交性を育成する」からだ、とブライスは考えました。

少なくとも、ブライスは、公選で選ばれた議会や首長がいるという理由だけで、地方自治に価値を認めたわけではありません。
顔の見える、小さな地域社会において、いきいきとした自治の営みがあったことに着目して、冒頭の言葉を残したことを忘れるべきではないと思います。