『繕い裁つ人』
秀作です。
神戸の坂の上に佇む古い洋館で、ひらすらミシンを踏み続ける主人公、南市江。
洋館には、「南洋裁店」の古い看板が掛かっています。
偉大な仕立て人であった祖母を超えられず、自分なりの服を創りたいという願いを押し殺し、祖母が仕立てた服の繕いにいそしむ日々。
そこへ、大丸神戸店の藤井が市江の技に着目し、ブランド化の話を携えてやってくるところから、ドラマが始まります。
眼下に望む神戸の街、港、そして光る海。
主人公の靴音、教会の鐘、阪急電車が走り去る音・・・
神戸の光景、そして音風景が、この穏やかで奥行きの深い映画の大事な舞台装置です。
祖母が仕立て、そして、市江が繕い続けてきた服を大事に着ながら、永く寄り添って生きてきた人々。
そんな人々の密かな楽しみは、年に1回開かれる「夜会」です。 30歳以上で、南洋服店で仕立てた服を着続けてきた人だけが参加することができるのです。
美しく咲き誇る花々に囲まれ、人々が弦楽四重奏の生演奏に合わせてダンスを踊り、グラスを傾けるシーンは、観る者を美しいメルヘンの世界に誘います。
中谷美紀さんは、凛とした美しさを湛え、誇り高く、優しい主人公を演じます。
そして、この映画のもう一人の主役は、「洋服」です。神戸が誇る洋服業界のみなさんが、制作に貢献されました。
振り返れば、監督の三島有紀子さん、中谷美紀さんが市役所にお越しになったのは、1月14日のことで、すっかり日が経ってしまいました。
久しぶりに観た映画が、このように素晴らしい作品であったことは、本当に幸せでした。