久元 喜造ブログ

『松方幸次郎とその時代』

職員のみなさんが台風11号の災害復旧に従事されている中、心苦しかったのですが、諸般の事情もあり、8月13日から15日までお盆休みをいただきました。
休みの間は、市役所から入る情報に注意しながら、 『火輪の海-松方幸次郎とその時代-』 (神戸新聞社編)を読了しました。
前編287頁、後編321頁、600頁を超える大著です。
matsukata

松方コレクションで知られる 松方 幸次郎 (1865-1950)の生涯を描いた評伝です。
松方幸次郎は、明治の元勲、松方正義の三男として生まれ、川崎造船所(現川崎重工)社長、神戸新聞社初代社長、衆議院議員、そして、美術品収集家など多彩な顔を持った実業家です。
美術品の収集を中心に描かれていますが、神戸が日本を代表する大工業都市、国際港湾都市として発展していく過程が、松方の生き様を通じて、鮮やかに描かれていました。

川崎造船所の創始者・川崎正蔵、鐘淵紡績の武藤山治、鈴木商店の「大番頭」金子直吉、大阪経済界の重鎮・五代友厚、兵庫県知事・服部一三、神戸市長・鹿島房次郎、ロシアの陸相クロパトキン、社会運動家・賀川豊彦、近代中国建国の父・孫文、そして、印象派を代表する画家クロード・モネ、洋画の巨匠・黒田清輝など多彩な人物が登場します。

松方が夢見た「共楽美術館」は、結局は実現を見ることはありませんでしたが、1953年、吉田茂内閣は、コレクションを受け入れる美術館建設を閣議決定します。
神戸市助役に就任したばかりの宮崎辰雄は、さっそく神戸での建設を外務省に要望しますが、東京の上野に 国立西洋美術館 が開館し、松方コレクションの一部が所蔵されることになりました。
常に時代の先を読み、さまざまな局面で不可能を可能にしていった松方幸次郎の業績は、膨大な松方コレクションを通じて、長く後世に語り継がれていくことでしょう。(文中敬称略)