久元 喜造ブログ

再読・長谷部恭男『憲法と平和を問いなおす』

関空からロンドンまで、一人きりのまとまった時間が久しぶりにとれたので、 長谷部恭男『憲法と平和を問いなおす』 (ちくま新書)を読みました。10年ほど前に、長谷部東大教授からいただいたときに読んで以来の再読です。
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長谷部教授は、まず、「序章」で、代表民主制と立憲主義の要請との衝突について触れておられます。
この点については、総務省で選挙部長をしていたとき、菅義偉総務大臣(当時)の指示で知事や市町村長の多選制限の可否について研究会をつくって検討した際に、ずいぶん議論したものでした。
従来、旧自治省は、地方自治の本旨や職業選択の自由などとの関連で、多選禁止は違憲の可能性が排除しきれない、との立場でしたが、この研究会では、多選禁止は立憲主義の見地からも正当化されうるし、憲法上許されるとの立場をとりました。

さて、本書では、「なぜ民主主義か?」「なぜ立憲主義なのか?」という根源的な疑問について、思想的な系譜も含めて、わかりやすく議論が展開されていきます。
その上で、長谷部教授は、「立憲主義は、多様な価値観を抱く人々が、それでも協働して、社会生活の便益とコストを分かち合って生きるために必要な、基本的枠組みを定める理念」だとされます。そして、憲法が教えるのは、「多様な生き方が世の中にあるとき、どうすれば、それらの間の平和な共存関係を保つことができるかだ」と指摘されます。
立憲主義は、単なる理念ではありません。それは現実を見るように要求します。
「世の中には、あなとは違う価値観を持ち、それをとても大切にして生きている人がたくさんいるのだということを要求する」という指摘は、まさにそのとおりだと思いました。
同時に、憲法に基づき法を執行する政府や自治体は、自分たちと同じ立場以外は許さないという勢力とも、立憲主義の要請に基づき、辛抱強く共存していかなければならないということも、改めて認識しました。