久元 喜造ブログ

神戸の地下鉄の民営化は、実現不可能。

地下鉄事業の民営化を主張する立候補予定者がおられますので、私の考え方を述べておきたいと思います。
結論から申しますと、今の経営状況では、地下鉄の民営化はありえません。
民間企業は、事業の引き受けに当たって、損をしないようにしますから、結局、市民・利用者が大きなツケを支払うことになります。実現不可能です。

地下鉄の収支を、平成23年度決算の数字で簡単に見ておきましょう。
まず、単年度収支は、西神山手線が約52億円の黒字、海岸線が約60億円の赤字、全体で約8億円の赤字です。
西神山手線の黒字で海岸線の赤字を埋め、なお赤字が出ています。
地下鉄は、企業債、つまり借金をして建設しますが、この企業債残高は、西神山手線分が約600億円、海岸線分が約1360億円、全体で、約1960億円、おおざっぱに、約2000億円です。

西神山手線を売却して民営化するとしますと、西神山手線の企業価値は、現在の経営指標からみると約1200億円程度と見込まれます。仮に、売却しても800億円の債務が残ります。
一方、海岸線は、単年度の赤字が60億円、企業価値もマイナスで、引き受け手が現れることはあり得ず、売却は不可能です。
仮に、西神山手線を売却できたとしても、海岸線単独では、800億円の債務償還の目処がたたず、この債務償還をしながら、事業を継続するためには、大幅に値上げをするか、最低毎年15億円程度の市税投入による市民負担が必要になります。
仮に、乗客数の増で賄おうとすると、現行の3倍以上の乗客(4万人→13万人)が必要であり、これは現実的ではありません。

このように、現在の経営状況で売却するとすれば、たちまち経営が立ち行かなくなり、事業を継続するには市民の負担・利用者の負担を大幅に増やすしかありません。
また、上下分離方式や運営権売却方式によろうとしても、民間事業者は債務や経営状況からみて、黒字でなければ投資しませんから、結局、売却した場合と同じことになります。
目先の利益のみを追求して、売却により沿線の住民が不利益を被ることになれば、市民の足としての公共交通の使命が果たせなくなり、本末転倒です。