書棚を整理しているとき、たまたまこの詩集を見つけました。
ずいぶん久しぶりに、開きました。
高校2年のとき、おそらく元町の海文堂で購入したと思われます。
詩集の中に、「楡の町」がありました。
小学生の5年生か6年生のとき、教科書に載っていた詩です。
私は、この詩がとても好きでした。
見渡すかぎりのささ原や、沼や、湿地や、林の中に
高いにれの木が一本あった。
春になると、芽をふいた。
・・・・・・
広い原っぱの西の方には
まるい山や、三角形の山がいくつもかさなり、
その向こうから、原っぱの真ん中をつっきって、
川がひとすじ東北の方角へ流れていた。
夜になると、きつねが鳴いた。
山のかげがくろぐろとせまった。
寒い、お月さまもこおりそうな冬の晩に、
その山の上でおおかみもほえたかもしれぬ。
・・・・・・
――そして、ある冬の寒い日、
にれの木ははじめて自分の方に近づいてくる
見なれぬ人間たちの姿を見た。
いちめんの根雪の上に、
まだ白い粉雪が降り積っていた。
人びとは武者ばかまの上に
陣ばおりのような外とうをかさね、
腰にはみんなまだ刀をさしていた。
・・・・・・
にれの木はなにもかも知っていた。
にれの木はなにもかも見ていた。
――しかし気のついたとき、
うさぎ、りすはもう自分のそばにはいなかった。
きつねの鳴き声も聞えなくなった。
にれの木は自分だけを道ばたにのこして
りっぱなコンクリートの道路が
まっすぐ走っているのを見た。
・・・・・・
北海道の札幌の町がこうしてできた
月が輝く山の上で吠えるオオカミの姿を、小学生の私は想像しました。
大人になって、札幌で仕事をしていたとき、知らず知らず、「楡の町」の一節を口遊んでいたのを思い起こします。