1938年、ナチス・ドイツはオーストリアを併合しました。(Anschluss)
本書は、1938年2月12日に行われたオーストリア首相シュシュニクとヒトラーとの会談に始まり、ドイツ軍のオーストリアへの武力侵攻、4月10日の国民投票における圧倒的多数での承認、そして併合後の日々が取り上げられます。
政治家・軍人・官僚・音楽家・作家・精神分析医・学者などさまざまな人々の苦悩に満ちた日々が、互いに関連づけながら描かれます。
ウィーンは、さまざまな分野の芸術家が活躍する芸術都市でした。
苦悩するシュシュニクの慰めは、友人である詩人のフランツ・ウェルフェルにゲーテの詩を朗読してもらうことでした。
ヴェルフェルのパートナーは、作曲家グスタフ・マーラーの未亡人、アルマ・マーラー。
アルマが主宰していたサロンには、シュシュニクなど政財界の要人、指揮者のブルーノ・ワルターなど数多くの芸術家が集っていました。
併合により、ユダヤ系のフランツには危機が迫ります。
彼は逗留先の国外に留まり、ウィーンに戻ったアルマも機転を利かせてウィーンを脱出しました。
ナチスが真っ先に焚書の対象としたジークムント・フロイトとその一家も、辛うじてウィーンを脱出することができました。
ヒトラーを歓呼で迎えたウィーンでは、国内に留まったユダヤ人への迫害が始まります。
街頭でのむき出しの暴力には、長年、ユダヤ人など他民族とともに暮らしてきた「普通の」オーストリア人たちが関わりました。
そしてユダヤ人は、次々に強制収容所に送られました。
「終章 それぞれの1945年」
シュシュニクは、戦後米国で国際法を教え、晩年はチロルで過ごしました。