久元 喜造ブログ

猪俣哲史『グローバル・バリューチェーンの地政学』


グローバル・バリューチェーン(GVC)については、コロナ禍の時期によく使われていたので言葉としては知っていましたが、本書でその意味をある程度理解することが出来ました。
生産工程が細かく切り分けられ、業務が最も効率よく行われる国に各工程が移転されるようになると、資産や雇用機会、テクノロジーといった<経済的価値>をめぐる国際的なパワーゲームが繰り広げられる段階に入ります。
国家は、このパワーゲームに主体的に関わります。
著者は、「GVCが国家間のパワーバランスを動かす戦略次元の一つを構成するようになった」という認識に立ち、GVCこそが中国経済の変化を極限まで加速させたと考えます。
新興大国・中国による「追う者の驕り」と覇権国・米国による「追われる者の恐怖」という集団心理の交差が、国際関係に破壊的なリスクをもたらすようになりました(アリソン)。
その上で考察されるのが、米中デカップリングの推移とその政治的・経済的含意です。
「デカップリング(分断)」とは、財やサービスの流れを政策的に操作することで、地政学的「懸念国」からの影響を軽減するありようです。
著者は、その政策ツールを具体的に紹介します。
米中デカップリングがこのまま進んでいくと、両陣営とも経済への深刻なダメージを受けるとされます。

本書が刊行されたのは2023年6月、バイデン政権下でした。
2025年1月の第2期トランプ政権の対中戦略を占う上で、本書の分析は参考になると思われます。
国際情勢や国際経済に疎い自分が本書を十分理解できたわけではありませんが、今後予想される激動の中で生起するであろう事象を読み解く視座を提供してくれたように感じました。