久元 喜造ブログ

谷原つかさ『「ネット世論」の社会学』


帯には、「「民意」を作るのは、0.2%のユーザだった」「ネット上で多数派に見える意見は、必ずしも実際の支持率や選挙結果とは相関しない」とあります。
2012年衆院選、2022年参院選、2023年大阪府知事選について、ネット世論に関するデータを集めて分析し、このような結果が導かれます。
たとえば大阪府知事選挙における吉村洋文候補に関する投稿では、ネガティブが62,1%、ニュートラルまたは態度不明が26,1%、ポジティブが11.8%でしたが、選挙結果では吉村候補の圧勝でした。
このような相違が生じる背景について、「フィルターバブル」「エコーチェンバー」「沈黙のらせん理論」などの概念を用いて、「ネット世論」の実態が分析されます。

興味深かったのは、ジャニーズ問題に関するネット世論と報道に関する分析から導かれる「少数派が力をつけるストーリー」です。
「ソーシャルメディア時代においては、エコチェンバーにより孤立の恐怖を感じにくい」ため、「自分の周囲において自分に似た意見が可視化され、容易に意見表明ができるようにな」ります。
「自身が少数派であることすら認識できていないかもしれ」ないと。
著者は最後の章「フェイクニュース時代の歩き方」で、ネット世論とどう向き合うかについて指摘していますが、それらはいずれも常識的な内容だと感じました。

しかし、状況は大きく変わります。
2024年の衆院選、兵庫県知事選の後、著者は昨年の11月「一連の選挙において、潮目は変わったように思います。正直な話、拙著を今読むと隔世の感があります」と吐露されています。(朝日新聞デジタル)。
今後の議論の行方に注目したいと思います。