日本を代表する建築家の一人、隈研吾氏が日本の建築について語ります。
私は建築の素人ですが、神戸市はとくに近年、かなり多くの建物をつくってきたこともあり、建築については関心を持ってきました。
ごく一部しか理解できませんでしたが、興味深く読みました。
建築、そして建築家の世界が、論争に満ちていることがよく分かりました。
それは、冒頭のブルーノ・タウト(1880 – 1938)のモダニズム批判からいきなり始まります。
タウトは、ワイマール共和国で労働者のための重合住宅の建設に携わりますが、ヒトラー政権から危険視され、来日します。
当時一世を風靡していたコルビュジェのモダニズム建築を批判していたタウトは、日本の地で、自らの建築思想を開化させる可能性を見出したのでした。
本書の中で折に触れて出てくるのが、吉田五十八(1894 – 1974)と村野藤吾(1891 – 1984)との対立軸です。
吉田は、第4期の歌舞伎座の建築に関わりますが、村野が大阪・難波の駅前にデザインした新歌舞伎座は、吉田への真正面からの批判であったと、著者は指摘します。
対立軸は、関西と関東との間にも及びます。
村野は、東の「大きな建築」を批判して、美しさや機能性という西欧の伝統的な評価基準の上位に、「品がいい、悪い」という、もうひとつの評価基準を提示したと、著者は指摘します。
この「品」をめぐる批判に対して関東が提示した新基準が「粋」であったという視点も、興味深いものでした。
戦後日本建築最大の論争であったとされる「伝統論争」が、吉村順三、そして、東京都庁を設計した丹下健三らの間で激しく闘われたことも、本書で初めて知りました。