帯に、「兵庫県内の失われた「時」を求めて」とあります。
海港都市、旧軍都、城下町、温泉街、工場地帯、人工島、そしてサバービア(郊外の光と影)・・・
文は、樋口大祐さんと加藤正文さん、写真は、三津山朋彦氏です。
県内各地の過去と今が、美しい文章と写真で描かれます。
栄町通、新港地区、三宮・元町界隈など神戸の風景も数多く登場します。
それらの中で、とりわけ印象に残ったのは、神戸駅の夜の光景。
「夢の終点と起点」と名付けられた樋口さんの文章でした。
「宵の時分、神戸駅の山側広場を湊川神社方面に歩いてから駅舎をふり向くと、鉄筋コンクリートタイル張りの正面玄関の上に、ライトアップされた窓や時計、KOBE STATIONの文字のプレートなどが視界に飛び込んでくる」。
「闇の中に浮かび出た蜃気楼のよう」に「不思議な印象は、幾重にも修羅をくぐり抜けてきた神戸の近代史の不思議さと通じているのかもしれない」。
明治政府は、大阪・神戸間の終着駅をこの地につくり、北に隣接する楠木正成の墓碑跡に、湊川神社を創建しました。
やがて多聞通が開通し、神社正面から駅に至る街路には大黒座などの芝居小屋が立地し、明治期の神戸芸能の揺籃をなすようになったことを、本書で初めて知りました。
神戸駅は、人々の別れや悲しみの場所でもありました。
私が子供の頃、神戸駅界隈には沢山のお店があり、とても賑わっていました。
今年、神戸・大阪間の鉄道開設150年記念行事がJR西日本さんの主催で行われたとき、お祝いの挨拶の中で、少しだけ当時の記憶に触れました。
神戸駅が歩んできた歴史を大切にしながら、神戸駅前の再整備に取り組んでいきたいと考えています。