久元 喜造ブログ

松村淳『愛されるコモンズをつくる』


最初に提起される課題は、住宅という私的空間、そして、さまざまな公的空間の限界です。
コロナ禍の中でオンライン会議やテレワークが行われましたが、nLDKタイプが主流の都市型住宅は、仕事や勉強をする面的余裕はありませんでした。
一方、公的空間は、単一目的を持った空間であり、自由に出入りして利用することができない場所が増えてきました。

このような限界を克服する観点から本書で検討されるのは、主として民間主導の「共」的な居場所です。
人々の交流を媒介する具体的な場所やモノである「コモンズ」という概念が浮上してきます。
「コモンズ」の姿は、「街場の建築家」の設計思想に埋め込まれている「共的な感覚」の具現化として現れます。
「街場の建築家」という新しい職能の展開としてのコモンズの創造が取り上げられます。

具体事例の一つが、神戸市兵庫区の山麓部で展開される「バイソン」です。
地名の「梅元町」に由来します。
すぐ裏が山になるこの地域には、長年たくさんの廃屋が放置されてきました。
屋根には大きな穴が開き、空が見えるような物件もありました。
道は狭く、車を乗り入れることができないため、建築資材や工具を職人たちが人力で運ぶ作業が続けられ、廃屋は再生されていきました。

一連の作業を率いるのは、西村組の西村周治さん。
「バイソン」は、仲間とつくり、交流し、仲間と暮らす場所です。
西村さんのような人々が、「コモンズを創造し、そこに人々が集い、交流し、幸福度を高めていくこと」で、「オルタナティブな実践を人びとに対して提示する」と著者は指摘します。
私も「バイソン」を訪れるたびに、SDGsが体現されているそのありように感銘を覚えます。