久元 喜造ブログ

森政稔『戦後「社会科学」の思想』


「社会科学」を「個別の社会領域を超えて時代のあり方を学問的に踏まえつつ社会にヴィジョンを与えるような知的営み」と定義し、以下の4つの時代を設定して、社会科学の主題の転換と背景にある思想が関連付けながら論じられます。
①「戦後」からの出発
丸山真男に代表される「戦後」の理論や思想の特徴が、マルクス主義などとの関係も含め再検討されます。
② 大衆社会の到来
1940 – 60年代に隆盛した大衆社会論を検討し、今日にまでつながる現代性に焦点が当てられます。
➂ ニューレフトの時代
「豊かな時代」に発生した「奇妙な叛乱」ともいえる1960 – 70年代の学生運動の歴史的意味について考察されます。
④  新自由主義的・新保守主義的転回
今日に直接つながる政治思想の意味と問題点が指摘され、現在の閉塞感についても考察されます。

最初に紙幅を割いて取り上げられるのが、やはり丸山真男です。
丸山の「「思想と行動」が戦後の諸特徴や諸問題を浮かび上がらせる点で重要である」という問題意識からです。
丸山の諸著作とそれらの特徴、実践的意図が分かりやすく説明されていました。

岡義武、神島二郎、宇沢弘文、坂本義和、高畠通敏、見田宗助、作田啓一、松下圭一、吉本隆明など、学生時代、そして駆け出しの役人時代に読んだ本の著者が次々に現れます。
熱量に溢れていたそれぞれの時代背景と、そのときどきに展開された論争が語られます。

帯には、「忘れ去られた知的遺産と出会う」と記されています。
確かに、戦後思想をリードしてきた人々の「今でも十分に通用する深い洞察に触れること」は、未来を切り開くための歴史的感覚を養う上で大事だと改めて感じました。