だいぶ前のことです。
JR須磨海浜公園駅から須磨海岸に向かって歩いていると、小さな書店がありました。
「自由港書店」です。
中に入ってみると、個性的な本が揃えられていました。
本書が目に入り、購入しました。
しばらく自宅の本棚のどこかに隠れていて、最近改めて頁を開きました。
文庫版の本書は、ミヒャエル・エンデ(1929 – 95)晩年の短編集です。
表題の「自由の牢獄」をはじめ8編が収められています。
ミヒャエル・エンデは、読む者を常人が想像もつかない遠い世界に連れて行ってくれます。
幻想の世界でありながら、どの作品にも、驚くほど現実世界の矛盾、理不尽、絶望が溢れていて、考えさせられることがたくさんありました。
最も印象に残ったのは、「ミスライムのカタコンベ」です。
閉ざされた地下の世界で生きる「影の民」。
支配者ベヒモートの下でひたすら働き、眠り、死んでゆく彼らの中で、主人公のイヴリィは他のみんなと違っていることに気づき、偶然、「外の世界」の存在を知ります。
モーツァルト『魔笛』の「夜の女王」を思わせるレヴィオタン女史から、ベヒモート打倒を持ちかけられます。
女史一味の実体もおぞましいものでした。
イヴリィは、影の民を外の世界に連れ出そうとします。
物語の結末は、衝撃的でした。
もう一編を挙げるなら、「道しるべの伝説」です。
富裕な商家に生まれた少年は、不思議な感性の持ち主でした。
財産と名誉を捨て、次々に名前も仕事も変えながら旅を続ける主人公が最後に辿り着いた場所とは。
「郊外の家」の舞台は、ミュンヘン郊外の牧歌的な土地です。
ナチスの高官が出入りし、兄弟は不思議な現象に遭遇し続けます。
不気味な回想の物語です。