久元 喜造ブログ

牧原出編著『「2030年日本』のストーリー


「手が届きそうな近い将来」がどんな時代になるのか、議論が展開されます。
政治学者の牧原出先生を中心に、安田洋祐、西田亮介、稲泉連、村井良太、饗庭伸の各氏が論陣を張ります。
政治、経済、メディア、社会学、都市計画など分野横断的な考察が行われ、コメントが記されます。
「ヒストリー」という切り口の第Ⅱ部は、東京パラリンピックと佐藤栄作政権が取り上げられます。
語り手は、政治史家の村井良太氏です。
当時を思い出しながら読みました。
「共通の歴史」が「人々の協働と共感を支える基盤となる」という指摘には共感を覚えます。

実際の街づくりと格闘している自分にとり、現実感を伴って読んだのが饗庭伸氏の「退場する都市空間と「国土の身体化」」でした。
明治維新からの長い間、増えた人口がつねに都市に押し寄せ、都市の側は追い立てられるようにその空間を増やしていきました。
つまり人口が先にあり、空間がそれを追いかけるという歴史でした。
ところが、人口が減り始めると人口と空間の関係が反転します。
人口が先に減少して空間が残されていきます。
大半の未来都市では、現在の都市の空間のあちこちから少しずつ人が退場し、空いた空間があちこちに散在するようになります。
小さな穴があいていくように都市が縮小する「スポンジ化」です。
饗庭氏はこのような退場が起きている空間を「前自然」と呼び、はっきりとした意志を持って臨めば、豊かな資源を獲得することができると指摘します。
大事なことは、「経験の檻」に囚われないことだと。
空き家の活用策として提示されるのが決まってシェアハウスとカフェだという指摘は、いささか耳が痛いところです。
斬新な発想が求められています。