久元 喜造ブログ

瀧井一博『大久保利通』


大久保利通と西郷隆盛が幼少期から近所同士で、竹馬の交わりを結んだことは知られています。
西南戦争で非業の死を遂げた西郷に比べ、大久保利通に対する人びとの視線は冷たく、冷酷な独裁者とのイメージが定着しました。
著者は、出店・注釈を入れれば520頁を超える本書において、大久保日記、手紙、文書などを丹念に読み込み、大久保の実像に迫っていきます。

明治維新は世界史の中で最も成功した革命と言われますが、どうしてこの偉業がなぜ成し遂げられたのか ― それは大久保利通がいたからだと、本書を読んで改めて確信しました。
幕末から新政府の樹立までの過程は、一歩間違えば外国勢力の介入を招きかねない内戦の危機を孕んでいました。
大久保は、常に事態の収拾に動き、危機の回避に成功します。
急進的な改革を求めず、現実的な対応を随所で示します。
廃藩置県にも常に慎重な態度をとりますが、断行を主張する木戸孝允に最終的には妥協する過程も克明に描かれます。
大久保の問題解決能力は、外交面でも発揮されます。
台湾で琉球の住民が多数殺害され、台湾出兵論が噴出する中、大久保は北京に赴き、清国政府との困難な外交交渉を成功させたのでした。

もちろん大久保の手腕は、内政面で発揮されます。
近代国家の体制がつくられていく複雑な過程が克明に描かれ、大久保が抱いていた国家理念は、妥協を余儀なくされながらも実現していきました。
大久保の功績は、殖産興業において顕著です。
優秀な民間人材を多数登用し、東北地方の開拓を進め、内国勧業博覧会を成功させます。
自身の暗殺によって体制が動揺しなかったのは、大久保が築き上げた制度が安定的に機能したからだと感じました。