久元 喜造ブログ

デトロイトにおける「足による投票」

選挙活動をやっていて、神戸市が財政再建団体転落の一歩手前まで行ったことについて触れることがありますので、きょうは、自治体の財政再建について取り上げます。

我が国では、どこに住んでいても、一定の行政サービスを受けることができるようにするため、自治体の財政運営に対して、地方交付税による財源保障が行われています。
これに対して、アメリカでは、このような財源保障の仕組みはなく、自治体の運営は、基本的に自己責任です。もし、自治体が財政運営に失敗すれば、行政水準は著しく切り下げられることになり、そのような自治体に住んでいたくない住民は、次々に、その自治体を出て行き、ほかの自治体に移り住みます。
いわゆる「足による投票」です。

先頃、連邦破産法に基づく破産申請をして、財政が破綻したデトロイト市では、1950年代に約180万人であった人口が、現在は70万人強にまで減少しています。
まず、富裕層・中間層が郊外の自治体へ流出し、貧困層が残ったため不動産価値が下落して、資産税収入が減少していきました。
税収が減少しても、我が国の地方交付税制度のように減収を補填する仕組みがありませんから、自治体は、行政水準を切り下げるしかありません。
アメリカの大都市は、警察を持っていますが、警官の解雇、警察予算の削減が行われた結果、治安が悪化して、殺人事件が多発し、デトロイト市は、20年以上、全米で「最も危険な都市」という芳しくない評価を受けています。
警察に通報してから警官が現場に到着するまでにかかる時間は、約58分で、全米平均の約11分の約5倍です。ちなみに、日本では約7分です。
当然のことながら、犯罪解決率は極めて低く、大半の事件で犯人がつかまることはありません。
火事が起きても、消防車が来ないこともあり、救急車の約3分の1が稼働せず、半分近くの街灯は、灯りがついていません。
こんな状況に愛想を尽かし、住民は次々にデトロイトを出て行きました。

日本でも、アメリカのように、自治体の自己責任を強調し、地方交付税制度を廃止して、「足による投票」を可能にすべきだという意見があります。つまり、住民が、最も負担が低く、最も行政水準が高い自治体を自由に選択できるようにすべきだという考え方です。
自治体も競争に晒して、行政効率を高め、対応できない自治体は市場原理の中で淘汰されるべきだという主張です。

現行の地方行財政度の中に、見直すべき点も少なくありませんが、アメリカ流の「足のよる投票」の考え方を入れると、自治体によっては、デトロイト市のようになってしまう可能性もあり得ることを認識しておく必要があります。