久元 喜造ブログ

ベートーヴェンの偶像化~佐村河内守問題④~

「現代のベートーヴェン」-佐村河内守氏が自らの宣伝に使ったキャッチコピーです。
聴覚の障害をたたかい、乗り越えて、数々の名作を書き上げていったベートーヴェンに自らをなぞらえたかったのでしょう。

そのベートーヴェンについても、伝えられてきた人物像が本当に実像に近いものなのかどうかは、議論の余地があります。
たとえば、私たちの世代の小中学生時代、音楽室に掲げられていたベートーヴェンの肖像は、苦難を乗り越えて、全身全霊、作曲に打ち込むベートーヴェンの姿を想起させますが、この肖像画は、ベートーヴェンが亡くなってから、はるか後に描かれたものでした。
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存命中に描かれたベートーヴェンの肖像画(国立音楽大学のサイト  参照)は、この絵とは似ても似つかぬものです。
偉大な作曲家、ベートーヴェン像は、ロマン・ロランの『ベートーヴェンの生涯』などによって創り上げられてきましたが、それは、記録や証言とはかなり異なり、誇張され、神格化されたものであることが知られています。
もちろん、ベートーヴェンが偉大な作曲家であり、特に晩年の作品群が至高の芸術的価値を有していることには、疑いの余地はありません。

ある人物が、死後に偶像化、神格化されることはよくあることですが、このような現象の背景には、ヒーローを待望する心理が、古今東西を問わず、存在し続けてきたが挙げられるでしょう。
もちろん、インチキを重ね、自らの実像とおよそかけはなれた虚偽の「偶像」を創り上げることは、さすがに本人の存命中には無理なことでした。
嘘は露見し、偶像は地に墜ち、偶像化に荷担したNHKに対する社会の信頼は失墜しました。
ヒーローを待望する素朴な人間心理を、自らの利益に利用しようとした佐村河内守氏とNHKは、同じ穴の狢と言えなくもありません。
2月24日のブログ でも触れましたが、NHKには、報道の検証を行う義務があります。3月16日に行ったような、おざなりな記者発表では、視聴者は納得しません。