テクノロジーが飛躍的に進化し続ける現代。
人間がテクノロジーを使いこなし、社会的不公正の是正や社会的課題の解決に活用していくことが求められます。
逆にテクノロジーが独自の進化を遂げ、人間を支配するようになれば・・・
あるいは、権力機構がそのようなテクノロジーを巧みに駆使し、人々を支配するようなことになれば・・・・
本書は、逞しい想像力の自在な飛翔により、独自のディストピアを読者に提示します。
物語は、R帝国が隣国のB国に宣戦布告したときから始まります。
主人公の矢崎は、国営放送のニュースをHP(エイチピー)の画面を操作して見ます。
HPは携帯電話ですが、高度な人工知能が搭載されていて、自らの意志を持ち、ときどき我儘にすらなります。
R帝国の権力を握る「党」は、HPを駆使して国民を監視し、情報を収集します。
HPの独自の意志を「党」は巧みに操っているようにすら見えます。
誰も抗えない高度な支配体制の中で、戦争に疑問を持つ会社員の矢崎、そして野党幹部秘書の栗原は密かに行動を始めるのですが・・・
帯で中村文則さんは、こう記しています。
「現実が物語の中で「小説」で表現されるという、ある意味わかりやすい手法を取ったのは、逆の発想として、今僕達が住むこの世界の続きが、この小説の行先の明暗を決める構図にしたかったからだった。つまりそういう風に、現実とリンクする小説にしたかった」
現実を想起させる人物、ガジェット、兵器、言説などが次々に登場します。
「この世界の続き」について考えさせられました。
中村文則さんの小説は、『教団X』(2019年1月26日のブログ)に続き2冊目ですが、今回も読みごたえがありました。