久元 喜造ブログ

小熊英二『社会を変えるために』

本書を読んだきっかけは、2016年に起きた軽井沢スキーバス転落事故でした。
報道によれば、この事故で亡くなった学生の遺品から本書が見つかったとのことでした。
帯には、「広く、深く、「デモをする社会」の可能性を探った本」とあります。
デモばかりを奨励するしているのではなく、一人ひとりの行動をどのようにして運動のうねりに結び付けていくのかがさまざまな観点から語られます。
本書でまず論じられるのは戦後の社会運動で、とくに占領下からの労働運動、安保反対運動、全共闘、ベトナム反戦運動の特徴や背景が詳しく論じられます。
連合赤軍事件などを思い起こしながら、興味深く読み進めました。
続いて、ギリシャ哲学から始まる西欧思想についてわかりやすく語られ、我が国における社会運動と関連付けて論じられているのが本書の特徴です。
古代ギリシャ哲学、デカルト、ニュートン、ルソー、アダム・スミス、ベンサムなどの思想が本書の文脈と関連付けながら、一連の流れとして分かり易く説明されます。
近代自由民主主義とその限界についても語られます。

その上で著者は、参加と運動を推奨するのですが、「運動のやり方に、決まったかたちはありません」と断った上で「政治家や官僚の人とも、話をするのはいいことだ」とも指摘されます。
「政治家や官僚は悪魔ではありませんが、神様でありません」-確かにそのとおりです。
最後に「運動のおもしろさは、自分たちで「作っていく」ことにあり」、「楽しいこと、盛り上がることも、結構重要です」と締めくくられます。
確かに、社会を変えていく上で、それが「楽しい」ものであることは、我が国の社会風土との関連においても重要だと感じます。