久元 喜造ブログ

オクチュリエ『社会主義リアリズム』


昨年秋に読んだ『ショスタコーヴィチ 引き裂かれた栄光』(2017年10月27日のブログ)は、ずっしりとした重い内容を含んだ著作でした。
そのときにも書いたのですが、ショスタコーヴィチの前に立ちはだかり、彼がおそらくは表面的に体現しようとした「社会主義リアリズム」とは何であったのか、この観点からの共産党権力との相克はどのようなものであったのかは、課題として残りました。
そこで、新聞の書評でぴったりのタイトルの本書を見つけ、読むことにしました。

著者は、本書の冒頭、1934年に制定されたソヴィエト作家同盟の憲章第1項を紹介します。
社会主義リアリズムとは、ソヴィエトの芸術的文学と文学批評の基本的な方法として、芸術家に、革命的発展における現実を、忠実に、そして歴史的かつ具体的に描写することを要求する

そしてロシア革命前後からの芸術文化における論争の経過が詳しく記述されます。
膨大な人物、文書が登場しますが、その大半は政治家、そして文学、芸術の理論家とも言える人々で、音楽はもとより、文学、演劇、建築、絵画などの個々の作品が語られることはほとんどありません。
各芸術分野における代表的な芸術家とその作品を題材とした考察を期待していたのですが・・・

メイエルホリドはなぜ処刑されなければならなかったのか?
そして、ショスタコーヴィチは、なぜしばしば断罪されなければならなかったのか?
検閲当局との神経戦はどのようなもので、それは作品にどのような影響を与えたのか?
これらの問いに対する答えは残念ながら本書からは見つかりませんでした。
ただ、旧ソ連史を芸術文化の観点から眺めることができたことは収穫でした。