「教団X」。
不気味なタイトルに惹かれて、書店で手に取りました。
文庫で600頁近い大著です。
そして、ずっしりと重いものをたっぷり含んだフィクションです。
物語の進行はかなり手が込んでいます。
ストーリー自体はさほど複雑ではないのですが、教団Xの教祖・沢渡、別の宗教団体の教祖・松尾、そして、これらに深く関わり合う4人の男女それぞれに凄絶な人生体験があり、それらが回想を交えて複雑に絡み合い、想像を超える展開を見せます。
教団Xは、反社会的な背徳的宗教集団です。
そのようなカルト集団はいつの時代にも存在してきたのですが、教団Xは、教祖、沢渡のすさまじい人生遍歴と密接に関わっていました。
アフリカやアジアの貧困、格差、これらに起因する暴力、テロなどが浮き彫りになり、現代が照射されます。
一方の松尾の団体は、開かれた雰囲気を持ち、松尾による「教祖の奇妙な話」が挟み込まれます。
仏教の摂理、デカルト、量子力学、人間心理などが巧みにつながり、大学の講義を聞くような雰囲気です。
教団Xは、平成の時代に実在したカルト集団と同じく、国家の転覆を狙い、権力への攻撃を開始します。
自衛隊、機動隊のみならず、陰謀を企む「公安」も登場し、緊迫感を孕んだ展開を見せます。
数多くの非条理がこれでもかというほど出現します。
ファンタジー的要素は皆無で、現代の暗部とグロテスクがあちこちでむき出しになります。
しかし非条理はなぜかそこに理由があるような形で出現し、この小説にある種の論理性と説得力を与えています。
目を覆いたくなるようなシーンにもしばしば救済の可能性が訪れます。
ラストシーンは、アフリカの大地。
一筋の光が未来を指し示します。