大変感銘を受けました。
複雑な事象が深く掘り下げられ、体系づけられるとともに、思考の枠組みが明確に示されていました。
第1部では、2010年代に起きた複数の危機-「ユーロ」「欧州難民」「安全保障」「イギリスのEU離脱」-が具体的に語られます。
これらの異なる危機は、バラバラに生じたのではなく、互いに連動しており、「国と地域・地方の利益を分岐させ、結果的に多次元にまたがる「多層危機」の様相を呈する」ようになっていきました。
筆者は、欧州統合の複雑な過程を丹念にたどった上で、「EUが歴史的に見て第一級の危機のなかにあり、ヨーロッパが重大な岐路にいることを明らかに」します。
EUは、もともと民主的正統性が希薄で、機能的正統性に対しても疑義が生じていました。
EUが次第に市民生活に浸透し、期待と反感が生まれていったところに、複合的な危機が襲い掛かります。
典型的には、域内国境を開放し、自由な往来を実現させたことが、テロリストの侵入と越境をもたらしました。
今、移民をめぐって、欧州は大きな世論の分裂に直面しています。
そして、イギリスのEUからの離脱。
筆者は、このことによる混乱は、「先進国が抱えるグローバル化、国家主権、民主主義の間の緊張関係を、劇的な形で、「見える化」してしまった」と考えます。
その答えは、「国家主権=民主主義に引きこもる」ことではありません。
そのような動きが加速化している今日であるからこそ、「グローバルな協力・再編を多方面、包括的に進める」一方、「国内においても中間層以下への支援を全面的に推し進める必要がある」と筆者は結論付けます。
違和感がない方向性です。