久元 喜造ブログ

井手英策『日本財政 転換の指針』

161029-1
著者の問題提起は、日本の財政危機の本質が税収の決定的不足であり、増税に対してどのように社会的コンセンサスを創り上げていくのか、という点にあります。

このようなテーゼを立てたうえで、筆者が戦後日本の財政の歩みを振り返り、歴史的に注目するのが「土建国家」です。
「土建国家」というと、否定的な評価が定着していますが、著者は、公共事業により、とりわけ地方において働く機会が創出されたことを評価します。
この結果、減税による中間層への利益分配が可能になり、社会保障に関する公的支出を軽減しました。

しかし、低成長時代に入り、このような利益配分構造が壁にぶちあたると、財政の方向は「いかに無駄をなくすか」に向かい、そこに「奪い合いの政治」が生まれました。
「誰がムダ遣いをするかを監視し、告発する政治」が当たり前の風景になりました。
「この分断を志向する民主主義は、不信社会化という社会の危機と分かちがたく結ばれており、それらが財政危機の原因となった」と著者は考えます。
このような状況の中では、人々は財政再建のための増税には強く反対し続けます。

どう事態を打開すればよいのか。
著者は、「人間を所得の多寡で区別しない、ユニバーサリズムに基づいた財政」という視点から、国税、地方税の具体的な税目について検証し、あるべき改革方向を示します。
そして、「特定の階層を受益者とする」のではなく、「すべての人びとが受益者となり、負担者となる」方向を目指すべきだと結論付けます。
私も、全体としてそのような方向を目指すべきだろうと思います。