山内マリコさん (2014年7月4日、2015年11月16日 のブログ)の近著が目に入ったので購入していましたが、少し時間ができたので読みました。
読み始めましたが、正直つまらなかったです。
長く働いていた千代田区、飲みに行くのが多かった中央区と港区、そして、学生時代を含めて長く住んだ新宿区と、自分なりに思い入れがあったせいかもしれないのですが、底が浅い感じがして、途中で読むのをやめようかと思いました。
ところが、台東区で雰囲気ががらっと変わります。
登場するのは、浅草六区。
かつての日本随一の繁華街。
「役人たちが奥山にあったいかがわしい見世物小屋なんかを全部六区に押し込めたもんで、たちまち大衆芸能のメッカになった」。
当時の猥雑な活気が生き生きと蘇ってきます。
永井荷風の『断腸亭日常』と重ね合わせながら、浅草六区に想いを馳せました。
続いて、墨田区に登場するのは、浮世絵師、葛飾北斎と歌川国芳です。
北斎の娘、お栄を交えた軽妙な会話は、二人の天才の想いを作者なりに組み立て、優れた芸術論に仕上がっていました。
国芳は自答します。
「目に映るもの全部を—目に見えないものだって、思いのままに」
たまたま、先日、「神戸ゆかりの美術館」で猫を描いた絵ばかりを集めた「猫まみれ展」を見たのですが、最も印象に残ったのが、歌川国芳の浮世絵でした。
それらは、単に猫を描写したというよりも、猫を題材にして、実に自由に想像力を飛翔させているように感じられました。
残りの各区の話も実に面白く、あっという間に読み終えました。