ヴィクトル・ユゴーの名作『レ・ミゼラブル』を読んだのは、高校のときでした。
河出書房新社グリーン版・世界文学全集でした。
先日、三宮のジュンク堂で本書を見つけたのですが、今頃になって『レ・ミゼラブル』に関する本を読む気になったのは、著者が鹿島茂さんで、鹿島さんの文章はいつもたいへん面白いからです。
7月に西宮の芸術文化センターで『椿姫』を観ましたが、プログラムに鹿島さんの解説があり、『椿姫』の社会背景が実に鋭く、また興味深く描かれていました。
本書では、 筆者自身がパリで購入したユーグ版『レ・ミゼラブル』(1879年出版)の挿絵が使われています。
この本を手にしたときの印象について、鹿島さんは、「ユゴーのテクストが挿絵と渾然一体となって、それまでには一度も感じたことのない力強い喚起力で十九世紀の前半という時代の雰囲気を蘇らせていた」と記しておられます。
小説の順序に沿って挿絵が配列され、そのシーンの要約が記されていますが、本書のおもしろさは、挿絵を「一種の解読格子として当時の社会・歴史的な要因」が注意深く考察されていることです。
私は、はるかかなたの記憶をたどりながら、小説のストーリーを追いかけました。すると、ジャン・ヴァルジャンが、テナルディエが、ファンチーヌが、コゼットが、そして、執拗にジャン・ヴァルジャンを追跡するジャヴェールが、・・・新たな光を放ちながら、立ち現れてくるように感じました。
そして、矛盾と混沌に満ちた当時のフランス社会の一端を覗き見ることができたように感じました。