久元 喜造ブログ

ピケティ『21世紀の資本』

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一年ほど前に話題になった トマ・ピケティ『21世紀の資本』 (みすず書房)は、時間を見つけて少しずつ読み続けてきましたが、ようやくメキシコ出張(10月17日のブログ)からの帰りの機中で読了することができました。

たまたま、第12章の中に、2010年以降の世界のお金持ちランキングのトップは、メキシコ人だという記述があり、複雑な想いにかられました。
ピケティが引用しているランキングは、有名な『フォーブズ』誌のものですが、メキシコ人事業家カルロス・スリムの資産は、直近のデータでは、771億ドル(約9兆円)を誇ります。
メキシコは、経済の成長が約束されている国のようですが、街中のインフラはいまだ未整備で、物乞い、とくに夫婦とおぼしき高齢の男女の姿が目立ちました。

さて、本書の主張は、一貫しています。
rを資本収益率、gを経済成長率とすると、第1次、第2次世界大戦を挟む一時期を除き、長期的には、常に
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という傾向が見られるというものです。

そして、資本収益率は、今後、一貫して経済成長率を上回ると見込まれ、この結果、格差は一層拡大していくとの見通しを示します。
フランス、英国、ドイツ、米国を中心に、豊富なデータを駆使する一方、バルザックなどの小説の場面を挿入し、当時の相続観に触れながらの記述は、興味深かったです。
「世襲型資本主義」への警告も、本書の重要なテーマです。

ピケティは、来日してマスメディアでも大いにもてはやされましたが、一時のブームに終わらせることなく、本書の問題提起をじっくりと吟味、検討することには意味があると感じます。(文中敬称略)