久元 喜造ブログ

テロの脅威とどう向き合うのか。

ikeuchi
東西冷戦の時代の方が、アラブ世界はまだ平和だったと思われます。
アフガニスタンには、穏やかな王制が敷かれていました。
イラクやシリアでは頻繁にクーデターが起きていましたが、統治機構は機能しており、人々はそれなりに平和に暮らしていたと考えられています。

今日の無法と混沌は、まさに目を覆わんばかりです。
その大きな要因である「イスラーム国」がどのようにして出現したのか、その内実はどのようなものか、どこに行こうとしているのか ―  池内恵『イスラーム国の衝撃』 (文春新書)は、わかりやすく説明してくれます。

とりわけ深刻なのは、欧米諸国との関わりです。
「イスラーム国」に欧米から多数の若者が参加し、戦闘や「高度で繊細な宣伝戦」に従事しています。
母国に帰国して、テロを引き起こす者もいます。
筆者は、「イラクやシリアで武装・経験を積んだジハード戦士たちが、もしネットワークを維持したまま帰国」すれば、欧米社会への一定の脅威になると指摘する一方、帰還兵すべてをテロリストととらえ、過剰な対応を行うことの危険性にも警告を発します。

筆者は、日本への脅威については、欧米諸国と異なり、「イスラーム教徒の大規模な移民コミュニティを抱えておらず、社会との摩擦が政治問題化していない」とし、「西欧諸国が抱えるイスラーム教徒の一部の過激化の問題を、日本は共有していない」とします。
絶対に起こりえないとは言えませんが、いたずらに恐怖心に駆られることなく、冷静に対応することが求められます。

テロ対策の主たる責任は、国にあります。
同時に、イスラム教徒を含め、外国人住民が孤立したり、疎外感を感じることがないような地域社会をつくりあげていくことが、長い目で見て、テロを生みにくい社会にしていく上で大切だと感じます。