ロンドンから帰りの飛行機の中では、佐藤優『甦るロシア帝国』を読みました。
離陸前に、携行していた雑誌「プレジデント」(2014.5.5号)を開くと、佐藤優氏の解説『ウクライナの「分裂」は何を意味しているのか』が掲載されていました。
単なる偶然なのですが、本書に対する期待が高まります。
『甦るロシア帝国』を読み進んでいくと、ウクライナの歴史に関する詳しい叙述がありました。ソ連科学アカデミー民族学研究所のチェシュコ副所長との対話の中で、ウクライナの複雑な民族問題、宗教間の軋轢、そして当時のゴルバチョフ書記長のウクライナへの対応などが語られていきます(同書241-265頁)。
「プレジデント」の解説は、本書中の上記記述と全く符合しています。「ウクライナへの軍事介入をロシアが行う可能性は極めて低い」という佐藤優氏の見通しどおりに動くことを願いたいところですが、それにしても、佐藤優氏が、その場限りのコメントを垂れ流す多くのコメンテーターや「専門家」とは異なり、深い見識に裏付けられた主張を展開されていることがよくわかります。
本書は、筆者がモスクワ大学宗教史宗教哲学科で教えた学生との交流を通じて、旧ソ連の崩壊過程の舞台裏がどのようなものであったのかを、生き生きと、同時に、生々しく描いています。
そして、学生や旧ソ連の知識人たちとの議論の中で、旧ソ連の民族問題、宗教哲学、共産党イデオロギー、マルクス主義などが縦横に結びつけられ、旧ソ連を構成していた国家と社会がどのような存在であったのかがわかりやすく語られます。
同時に、市場経済への移行に伴う過酷な社会状況の中を懸命に生きた旧ソ連の若者たちの生き様、そして筆者の彼ら、彼女らへのひたむきな関わりも、本書を読む者の胸を打ちます。