久元 喜造ブログ

区長・校長公募 ― 失敗の理由

昨日のブログ で、大阪市において、公募により民間から任命された区長や校長が、次々に問題を起こし、辞めさせられたり、処分を受けている事例を紹介しまた。
きょうの朝日新聞夕刊でも、一面トップで、大々的に取り上げられています。

このような失敗事例が相次いでいるのは、単なる偶然でしょうか。そうではありません。私は、失敗は必然だと思います。
理由は、簡単です。区長や校長は、それぞれの区、学校の最高責任者であり、そのような重要ポストににふさわしい人物かどうかは、論文や面接だけでは判断できない、ということです。

一般に、公募による人材リクルートには、メリットとデメリットがあります。
メリットとしては、ひろく未知の人材を募り、新しい優れた人材を入れて、組織に活力とダイナミズムを与えることが挙げられます。新鮮な感覚を持った、優秀な人材が次々に入ってくれば、組織は活性化します。
一方、公募には、デメリットがあります。試験や面接などでは、本当にその人が、自らの組織にふさわしい人物なのかどうかはよくわかりません。公募には、不確実性があるということです。

組織が若い人材を新規採用する場合には、公募のメリットが、デメリットをはるかに上回ります。採用してから、本人の能力や適性を見極め、研修を行い、ふさわしいポストに配属していくことによって、デメリットは事後的に減らすことができます。

これに対し、区長や校長の職務は幅広く、仕事は複雑、高度で、高い見識が問われます。就任したその日から、高度な判断や困難な調整に追われます。言動も注目されます。
区長、校長とも、市役所や小中学校に新規採用で入られたみなさんにとっては、多くの場合、最終のポストであり、区長や校長になる方は、ごく一部です。
そのような重要なポストの人事においては、失敗のリスクを極力回避しなければなりません。
ふたをあけてみたら、とんでもない人物であったということになれば、市役所や学校の日々の仕事にも差し障りが出ますし、市民のみなさん、保護者のみなさんをはじめ、たくさんの方々に大きな迷惑をかけることになります。
部下職員の士気も大きく下がることでしょう。上司のスキャンダルの処理に追われる、総務・人事担当の職員は、どんな気持ちで対応されているのでしょうか。

私は、区長や校長の公募は論外だと思いますが、民間からの登用を否定するものではありません。
区長や校長にふさわしい人物は、民間にもおられると思います。しかし、その場合には、未知の人物を、論文や面接などで判断する博打人事ではなく、既知の人材の中から、真に、区長や校長が務まるかどうかをきちんと見極めた上で、選ぶべきだと思います。

私は、長く、国や自治体で仕事をしてきて、人事の失敗をたくさん見てきました。
予算は間違えても、補正すればすみますが、人事を間違えると、取り返しがつかないことになりかねません。
とくに責任の重いポストの人事は、周到な上にも周到に行うべきです。人事でポイントを稼ごうといった邪心を抱くと、まず、墓穴を掘ります。
周到な上にも周到な人事を行っても、失敗することはあり得ますが、失敗のリスクはできる限り減らすべきです。
公募による区長の任命は、限りなくリスクが大きく、組織管理の常識があれば、あり得ない選択です。