久元 喜造ブログ

ロバーツ『スターリンの図書室』


「血まみれの暴君は、「本の虫」でもあった」
アイルランドの歴史家で伝記作家、ジェフリー・ロバーツによる異色の伝記です。
スターリンはどんな本を読んだのか、どのような感想を抱いたのか。
スターリンは、読んだ本の多くに書き込みを行い、膨大な記録が残されました。
著者は、それらを調査・分析し、スターリンの思想や思考方法に迫ろうとします。

スターリンはレーニンを崇拝し、その著作を数百点も所蔵していました。
レーニン、そしてマルクス、エンゲルスの著作に関する書き込みからは、スターリンが最期の日まで、この3人の著作を読み続けたことが分かります。
スターリンは、かつての同志でライバルであり、失脚させ、メキシコまで追いつめて暗殺した政敵トロツキーの著作も熱心に読み、賛辞を示したり、下線を引いたりしています。

スターリンが熱心に読んだと思われるのは、ドイツの鉄血宰相ビスマルクの著作でした。
ビスマルクの回想録第1巻を読み、余白には、第2巻もロシア語に訳し、第1巻とともに出版する指示を書き込んでいます。
外交に関する著作も数多く読んでいます。
マキアヴェッリの『君主論』も所蔵し、「びっしり書き込みが残」っていたという証言もあります。

スターリンは、文学にも親しんでいました。
旧ソ連で外相などを務めたグロムイコは、次のように回想しています。
「ロシアの古典について博識だった。特にゴーゴリ、サルトィコフに詳しかった」
「私が知る限り、シェイクスピア、ハイネ、バルザック、ユーゴーも読んでいた」

スターリンはコピーライターを置かず、演説などの原稿はすべて自身で書いたそうです。
文筆家としての素養は、読書によって培われたと思われます。