久元 喜造ブログ

前田啓介『昭和の参謀』


著者は執筆当時、読売新聞東京本社文化部の現役記者。
本書も記者らしい取材記から始まります。
2019年に行われた取材の相手は、東部ニューギニア戦線を戦った元第18軍参謀、堀江正夫でした。
当時104歳の堀江は、2時間以上、矍鑠とした態度を崩さずに語り続けます。
堀江の瀬島龍三、辻政信に対する評価はかなり異なったものでした。

本書では、瀬島、辻など7人の参謀が取り上げられます。
著者は、実子がいなかった石原莞爾を除き、ほかの6人の参謀のご子息、ご息女に会うことができたそうです。
こうして、戦争遂行の中枢を担った参謀たちの戦後と人生模様が浮き彫りになっていきます。

石原莞爾、辻政信、瀬島龍三はよく知られた人物ですが、本書ではあまり知られていない戦後の言動も明らかにされます。
服部卓四郎、池田純久、堀栄三、八原博通のことは全く知りませんでした。
参謀としての任務遂行、そしてそれぞれの戦後が語られます。
服部は、参謀本部中枢のポストを歴任し、戦後は再軍備に関わり、軍人に自衛官登用の途を開きました。
「統制派」の理論的支柱であった池田は、戦後歌舞伎座サービスの社長などを務め、エチオピア顧問団長として国づくりに貢献しました。
印象に残ったのは、情報参謀出身の堀栄三です。
堀は晩年、故郷の奈良県吉野郡西吉野村(現・五條市西吉野町)の村長を務めました。
1991年(平成3年)、当時77歳の堀栄三は、村長選挙に出馬して当選。
村の職員にはワープロを使うよう指導し、パソコンを導入。
村おこしや情報発信においても斬新なアイデアを編み出し、実績を挙げていきました。
戦後沈黙を守った八原博通の生きざまにも感銘を覚えました。(敬称略)