神戸の震災のとき、著者は当時の貝原俊民知事の下で知事公室次長・秘書課長をされていました。
冒頭から地震当日の様子が生々しく語られます。
震災後には、初代の兵庫県防災監、そして副知事を務められ、震災と復旧・復興事業の重要な役割を担われました。
それだけに本書は、長年のご経験に基づく実践的な示唆と提言にあふれています。
個人の心構えと組織的対応の重要性が説かれます。
「陰徳陽報」
「最悪の事態を考えて対応する場合には、敢えて徒労を覚悟で事前の構えをする」こと。
無災害の期間が続くと災害への対応が無駄に感じられ、消防団の定数を減らす動きすら出てくることがありますが、著者は直言し、この動きを止められたと言います。
「羊質虎皮」
「実績を失って形式的な訓練は効果が少ない。実質的な訓練が必要である」。
このことは、ときどき感じることがあります。
大災害から遠ざかると、どうしてもこのような傾向が生じがちです。
著者が実際に指揮されたような抜き打ち訓練も有効だと感じます。
そして「王佐之才」
「自己の上司の立場をよく理解して上司の行動を支えることが重要であり、上司を補佐するためには、上司の視点を持ち考えることが有用である」。
そしてこうも記しておられます。
「混乱のなか上司といえども判断を誤った指示を出すことがあるため、そのときには正しいと思うことを素直に直言する」ことが大事だと。
今も、コロナ禍の中で私たちは危機に直面しています。
私も長くたくさんの上司に使える仕事をしてきて、著者のように行動できたか自問自答しながら、いま上司のいない立場になって、著者の言葉をかみしめ、これからの危機と闘っていきたいと念じます。