久元 喜造ブログ

朝日新聞社説「強行」処分批判に答える。⑩

前回
朝日社説は、今回の一連の措置について「疑問を禁じ得ない」とし、「市民の声に耳を傾けることは大切だが、公務員の身分保障を軽んじてよいわけではない」と指摘します。
ずいぶん腰が引けた表現ですが、公務員制度について、二つの相反する要請があるという指摘は、重要な視点です。
ひとつは、公務員制度、あるいは公務員の任用に民意を反映させること。
もうひとつは、公務員の身分を保障し、無用の心配をすることなく職務に従事できるようにすること。
この二つの要請は相互に緊張を孕み、この間でバランスをとることが求められます。
どちらかに偏っても問題が生じ、行政サービスの提供に支障が生じます。

歴史上有名な事例は、米国第7代大統領、アンドリュー・ジャクソンのジャクソニアン・デモクラシーです。
ジャクソン大統領は、職業的官僚制を忌み嫌い、普通の市民が公務員になるべきだ、そして公務は普通の市民が務めることができるような平易なものでなければならないと考えました。
自由任用制、短期任期制が広く採用され、この結果、官職は、政治家の獲物(Spoils)とみなされるようになっていきました。

このような過度な政治の介入を排除しながら、公務員の任用に民意を反映させる方法は、身分の得喪に関するルールを国民・住民の代表である議会が法律や条例で定めるようにすることでした。
法令による不利益処分の限定は、公務員の身分保障に資することになります。
地方公務員法の授権による条例の制定は、民意の反映と公務員の身分保障という、緊張を孕んだ両方の要請を満たすことになる解決方法であり、今回の対応は、正統的で適切なものであったと考えます。(完)