久元 喜造ブログ

2019年8月17日
から 久元喜造

高村薫『四人組がいた。』


市町村合併で市に編入された、山奥の旧村が舞台。
旧バス道沿いの郵便局兼集会所に集まり、一日中、茶飲み話に耽る四人の高齢者が主人公です。
元村長と元助役、郵便局長、そしてキクエ小母さん。
ゆったりとした、退屈な時間が流れていくのですが、外から訪問者が現れると、四人は高齢者とは思えないテンポで毒舌を浴びせ、意表を突く、驚くべき行動に出ます。
タヌキ、鹿、熊、それにどういうわけかダチョウも現れ、キャベツたちもがわさわさ行進を始めます。
荒唐無稽、突拍子もない物語が、とてつもないスピード感で展開されていきます。
それにしても、『マークスの山』などでの重厚な文体とはまったく異なる、軽妙な筆致に驚き、圧倒されました。

この小説では、過疎地域の現状のみならず、あらゆる社会事象が風刺の対象になります。
帯によれば「現代日本が抱える矛盾をブラックな笑いであぶりだす快作」です。

市長も容赦なくやり玉にあげれます。
三十代で新しく市長になった通称「ヘリウム」が思いつきでぶち上げたのが「子育て世代にやさしい田舎宣言」。
その一環として、市長は新しい保育所の開設を提案するのですが、ご多分にもれず、市は金欠で予算もない。
そこで、市長は、ほとんど出費ゼロですませられる方法として、保育所を旧村役場に開設。市内の児童を毎朝マイクロバスで山へ運び、夕刻にまた麓へ送り届けることにします。
即断即決で、僻地保育所兼老人デイサービスセンター『子育てのカオス&あの世にもっとも近い姥捨苑』がオープン。
四人組をはじめとする「ジジババども」、運ばれたきた保育園児たちに、タヌキたちも参戦し、まさにカオスの世界が繰り広げられるのでした。


2019年8月12日
から 久元喜造

坂爪真吾『「身体を売る彼女たち」の事情』


本書で語られる日常は、これまでまったく知らない世界でした。
「JKビジネス」「派遣型リフレ」という言葉も知りませんでした。
しかし、かなりの数の女性たちが、生きるためにこの世界で働いています。
行政が福祉の立場から関わらなくてもよいのか、関心を持たなくてもよいのか・・・

帯には、「生活保護は、絶対嫌です」とあります。
「彼女の決断の裏側には何があるのか?」
本書には、行政の側に存在する理由について、端的にこう説明します。

「福祉は、利用に当たって徹底的に過去を問われる世界だ。所得証明、扶養照会、医師による診断書や初診日証明、家族関係や離婚歴まで、それぞれの全ての履歴を書面で可視化することが要求される」
「生活保護を申請すると、資力調査や扶養照会が行われ、個人の収入や預貯金、資産、家族関係、就労能力まで全てが丸裸にされる」

本書には、「いびつな共助」という耳慣れない言葉がひんぱんに登場します。
この世界には、そこで生きている女性たちに、日々の生活に必要な現金を提供するのみならず、彼女たちのプライバシーを守り、ときには居心地がよい空間を提供する「共助」の仕組みがあるというのです。
同時に、そこは外の世界と隔絶されており、さまざまなリスクや理不尽が存在します。

著者は、この世界で働く人々のための無料生活・法律相談サービスを行う「風テラス」で活動しておられます。
「繁華街の風紀や性道徳を守る」から「現場で働いている人の権利を守る」へのパラダイムシフトの必要性を指摘されます。
区役所のケースワーカーのみなさんと意見交換をするとき、本書で紹介されている現実を話題にするのがよいのかどうか、正直、判断に迷います。


2019年8月4日
から 久元喜造

組体操は見合わせてほしい。


神戸でも、小中学校の体育祭などで「組体操」が行われてきました。
一部の保護者が拍手喝さいし、人気があるようですが、これまで数多くの事故が発生しています。
骨折事故が、過去3年間に、123件も発生しています。
このような状況は、深刻に受け止めるべきではないでしょうか。
組体操の上部から落下したり、押しつぶされたして骨折すると、命の危険、また後遺症につながる可能性があります。
組体操をやめさせてほしい、という切実な願いをたくさんいただいています。

このようなことから、私はかねてより、組体操の中止を教育委員会に求め、このような姿勢を公にも明らかにしてきました。(令和元年7月11日の記者会見
しかしながら、教育委員会は、十分な安全対策を講じるとしたうえで、組体操の継続を決めました。
説明に訪れた教育委員会幹部は、その理由として、もう秋に向けて組体操の準備を始めており、見合わせることにすると学校現場が混乱する、もし事故が起きれば、その状況を見て、今後の対応を考えるとの立場を説明されました。
大いに疑問です。
子供は、教育員会の実験の対象ではありません。
生きた人間なのです。
子供の命と安全は、何よりも大切にされなければなりません。

こうしたことから、8月2日、教育委員会に対し、「組体操が安全な状態で実施できないと判断する場合には、実施を見合わせて頂くよう」、文書で強く要請しました。
教育委員会には、これまでの頑なな態度を見直していただくよう、改めてお願い申し上げます。
また、小中学校の校長先生にも、先生方の負担の大きさにも想いを馳せていただき、真に子供たちのためになる対応を行っていただくよう期待いたします。


2019年7月31日
から 久元喜造

黒田武一郎『地方交付税を考える』


「地方交付税」という言葉は、小中学校の教科書にも出てきました。
「国庫支出金」との違いが教科書の説明では理解できず、もやもやした気分になったことを想い起します。
仕事で地方自治の道を選び、地方自治体の財政部局に三度配属され、地方交付税は身近な存在になったのですが、いまでも十分に理解できているという自信はありません。
なぜそう感じるのかというと、「地方交付税」について、分かり易く説明できないからです。
札幌市で財政局長をしていたとき、市政クラブの記者さんから、「地方交付税って何ですか?」と質問されたとき、的確な答えができず「本当に自分はわかっていないなあ」とつくづく感じ、悲しくなりました。
本当にわかっていないと、平易な言葉で語ることはできないものです。

本書は、この難解な「地方交付税」について、分かり易く語ってくれます。
それは、語り口の妙ではなく、著者が、地方交付税について知り尽くしているからです。
この制度について、徹底的に考え抜き、良いものにするために格闘してきたからではないかと思います。

多少は知っているつもりでしたが、本書を読んで新しい発見もありました。
それは「留保財源」の重要性です。
留保財源率は、自治体関係者から見れば所与の存在で、議論の余地がないのですが、そのありようが交付税制度の根幹をなしていることを改めて認識できました。

おそらく、本書以上に「地方交付税」を分かり易く語ってくれる書籍はないでしょう。
同時に、地方自治体で財政に携わる者に対しても、改めて地方交付税の本質とその存在の大きさ、地方交付税を通して見えてくる地方財政の現在について、大きな示唆と刺激を与えてくれる好著です。


2019年7月23日
から 久元喜造

夏休みの自由研究を手伝います。


前々回の『ネットモニターと市長との対話フォーラム』に、小学生がお母さんと一緒に参加してくれました。
そして、「神戸のことを自由研究で調べたいのですが、どこに聞けばいいですか?」と、私に質問しました。
私は「小中学生のみなさんが神戸のことを調べるときに、何かお手伝いできることを考えましょう」と答えました。

神戸市ウェブサイト を改めて確認したところ、適当なページはありません。
そこで、ふるさとの神戸のことをもっと知ってほしいと考え、子ども向けホームページ「こうべキッズページ」を開設しました。
「こうべキッズ百科」として、市の概要をはじめ、神戸の文化、交通、産業、生活・自然、国際交流、歴史、特産品の8分野を、画像なども含め、分かりやすい表現で紹介。
充実した内容となっています。

さらに夏休みだけの特別なページ「夏休みの宿題はおまかせ!」と題し、自由研究などに役立つ「イベント情報」や「学べる施設」を紹介しています。
「イベント情報」は、現在申し込める最新のイベント情報を、毎週更新しています。
「学べる施設」は、王子動物園、須磨海浜水族園など市の施設のほか、六甲高山植物園、神戸どうぶつ王国など民間施設まで、23施設を集めて紹介しています。

さらに、子どもたちの相談に直接答えることができるよう、教育委員会にお願いして、初めて「夏休み自由研究お悩み相談室」を設置しました。
教員OBなどの「学ぶ力・生きる力向上支援員」のみなさんが、小学生に自由研究の進め方や調べ方のアドバイスをします。
予約が必要で、今年の募集期間は終了していますが、来年は、事前予約なしに相談に応じることができないか、検討したいと思います。


2019年7月15日
から 久元喜造

創造性を大いに発揮してほしい。


2019年度の神戸市職員採用試験から「デザイン・クリエイティブ枠」を設けました。
美術や音楽、映像、デザインなど芸術分野の素養を備えたみなさんに入ってきていただき、人材の多様化を図ることが目的です。(2018年11月26日のブログ
数名程度の募集に対し、93名もの申し込みがあり、手ごたえを感じています。

芸術系の大学や専門学校を出た、これまでとは違うタイプのみなさんを市役所に迎え、事務職、技術職などの職員と一緒に仕事をすることによって、活発に議論し、談論風発できる雰囲気を醸成していってほしいと願っています。
組織が大きな公務職場では、がんじがらめのルールや目に見えないオキテがあり、職場ではひたすら自分を押し殺して仕事をし、好きなことは職場の外でする、という現象がみられることがあります。
職場の外で、自分の好きなことをして楽しむのは、大いに結構ですが、このことが、職場で押し殺している自らの創造性の回復を意味しているとしたら、それはとても悲しいことです。
創造性をどのように高め、発揮していくかについては、さまざまな方法があると思いますが、自分とは異なるタイプの人たちと交わり、触発しあうことは、有効な手段のひとつだと思います。
すでに、神戸市役所には、さまざまな職名で、多種多様な経験や特技を持つ外部人材が入り、活躍してくれています。
ひといろの発想や価値観に染め上げられた組織は弱いものです。
職員のみなさんが、それぞれ異なった知識や経験、想いを持ち寄り、語り合いながら、自らを高め、創造性を発揮していってほしいと願っています。
このことが、組織全体のパワーアップにもつながると信じます。


2019年7月6日
から 久元喜造

「新長田合同庁舎」完成式典


新長田の再開発地区に建設を進めてきた「新長田合同庁舎」が完成し、今日の午後1時から完成式典が行われました。
振り返れば、兵庫県庁で、井戸敏三知事と共同記者会見を行い、合同庁舎整備の方針を発表したのは、2015年(平成27年)9月28日のことでした。(当日のブログ
県と市の合同庁舎の設置という、全国的にもほとんど例を見ない、思い切った決断をされた井戸知事、兵庫県議会をはじめ、兵庫県の関係各位に改めて心より敬意を表します。
また、このプロジェクトに理解をいただき、応援していただいている地域のみなさん、商業者のみなさんに感謝申し上げます。

今回の合同庁舎の設置に伴い、合計約1,050名の県・市職員が、三宮などから新長田に移ってくることになります。
また、合同庁舎の北側街区に、県立総合衛生学院の移転が検討されており、これが実現すれば、さらに約300名の学生、職員が増えることになります。
合同庁舎の構想発表以来、国道以南の再開発ビルには新たなテナントの入居が目立っており、震災前の就業人口を回復するのは、時間の問題と思われます。
合同庁舎には、年間約30万人の来庁者が見込まれ、新長田の賑わいに大きく寄与することと見込まれます。
合同庁舎で働く職員のみなさんには、新長田を大いに元気にし、地域の活性化を応援する役割も担っていただきたいと願っています。

大橋地下道のリニューアルも完了し、案内サインも一新されました。
地域の機運も盛り上がり、新長田は大きく変わりつつあるように感じます。
これから、駅前広場の再整備の検討も進めていきます。
地域のみなさんと手を携え、これからも新長田の活性化に取り組んでいきます。


2019年7月2日
から 久元喜造

住宅街にお店があってはいけないのか?


金曜日の夜遅く、阪急六甲の八幡神社の近くを散策しました。
雨が降りしきり、神社の境内と周辺には神々しい気配が漂っています。
静かな住宅街の中に、雰囲気のよさそうなバーがあり、入りました。

もともとここには、ご夫婦でやっておられる居酒屋があったことを思い出しました。
マスターのお話では、この居酒屋を改装し、6月9日に、”Bar Stray Dog” をオープンされたばかりだそうです。
カナディアン・クラブのロックの後、アイリッシュ・ウイスキーを2種類いただきました。

マスターのお話によれば、このあたりには、最近、お洒落なお店が増えているそうです。
静かな住宅街の中に、素敵なレストラン、割烹店、居酒屋、バーなどが点在する街は、魅力的ではないかと思います。

ところが、現在の都市計画のルールは、このような街の姿に背を向けています。
住居専用地域に店舗などを建てることは、厳しく制限されているからです。
いま、住居専用地域に指定されている多くの地域で、人口流出が見られ、空き家・空地が増えています。
そのような中、むしろ、お店やオフィス、工房を増やし、職住近接の街づくりが求められるのではないのか。
先日もこのような問題意識で都市計画担当部局のみなさんと議論しました。
いくつかの方法はあるようですが、「地域の合意」が不可欠とされ、複雑な手続きが必要とされるようです。
これで良いのか。
商業地域では高層タワーマンションが次々建設されているのに、住居専用地域での厳しい立地規制はバランスを欠いているように感じます。
これまでの規制に固執するのではなく、あるべき街の姿をしっかりと描き、その実現のためのルールが求められています。


2019年6月29日
から 久元喜造

牧原出『崩れる政治を立て直す』

振り返れば、もう何十年もの間、行政組織、公務員制度、さらには政官関係について、改革が繰り返されてきたように思います。
牧原出教授は、「いつ頃からか、こうした改革を抱え込むことが重苦しくなってきたように見える」と観察されます。
「改革が思わぬ結果を生み、コストばかりがかかったり、現場が過重な負担にあえいだり、という事態が目立つようになったはいないだろうか」と。
このような問題意識から出発し、本書では、「制度をどう設計するか、という問いかけの前に、設計された制度がどう作動しているか」を考察の対象とします。
こうして本書では「作動」という言葉が頻繁に登場し、「作動学」による分析が試みられます。
歴代政権において実施された改革は、意図されたとおりに「作動」したのか。

私は、小泉内閣、第1次安倍内閣、福田内閣、麻生内閣、民主党政権、そして第2次安倍内閣の時代、課長、審議官、部長、局長としてその真っただ中にいましたので、たいへん興味深く拝読しました。
牧原教授は、「静かに変化が起こるように仕組まれた改革こそが、成功した改革」であるとし、例として、省庁再編と地方分権改革をを挙げます。
一方で、公務員制度改革については、「過去の失敗事例が関係者の間でそもそも共有されて」おらず、改革を牽引する集団は「その制度が果たして当初の目的を達成できるのか、副次的作用をもたらさないのか、またそもそもどうやって既存の運用から新しい運用へと「円滑に移行」できるのか、といった諸点に答えるところがなかった」とされます。
私は、公務員制度改革には直接は関わりませんでしたが、その過程をごく近くで見ていた者として、同じ印象を持ちます。


2019年6月19日
から 久元喜造

高層タワマンが林立する都市をめざすべきだろうか。


高層タワーマンションのあり方に注目が集まっています。
都心居住へのニーズは強いものがあり、高層タワーマンションの立地を厳しく規制することは、適当ではないし、現実的でもありません。
しかし、人口増加を図るために、都心など極めて狭い地域にタワマンを林立させるという政策は、とるべきではないと思います。
特定の地域への極端な集住は、災害時への対応を困難にする可能性がありますし、将来一気に街の老化が進み、予想を超える困難な事態が現出するおそれもあります。

また、そのような政策は、神戸のこれまでの歩みや都市としての特性から見ても適切とは言えません。
神戸は、戦前から鉄道網が発達してきた便利な都市です。
西日本で最も早く鉄道が走り、国有鉄道だけではなく、今の阪急電鉄、阪神電鉄、山陽電鉄、神戸電鉄の各私鉄が戦前から運行されてきました。
戦後は、地下鉄・西神山手線、海岸線が開業し、ポートライナー、六甲ライナーが自動運転で海上文化都市との間を結びます。
沿線にはバランスのとれた形で市街地が形成されてきました。
これは、神戸という大都市の貴重な財産です。

そのような都市としての歩みを無視して、都心に人口を集住させる都市政策をとれば、我が国全体が人口減少時代を迎えている中、沿線人口の減少、鉄道事業の採算性の悪化、鉄道の利便性の低下、さらなる沿線人口の減少という悪循環を招く恐れがあります。
何十年後かに、都心が一気に老化し、郊外が過疎化し、荒廃するという事態は悪夢です。
神戸は、人間らしい都市を目指したいと思います。
便利な公共交通網のインフラを活かし、バランスのとれた、持続可能な街づくりを進めていくべきではないでしょうか。