久元 喜造ブログ

2019年6月8日
から 久元喜造

松宮宏『アンフォゲッタブル』


松宮宏さんの今回の作品も、神戸が舞台です。
主人公は、ずばり、ジャズ。
そしてジャズの名曲たちです。
私は、音楽はどちらかというとクラシックの方が好きで、ジャズは深夜にビル・エバンスなどをときどき聴く程度ですが、改めて神戸が発祥の地であるジャズの世界に分け入っていきたいと思いました。

登場人物は、川崎造船所を退職した元潜水艦のエンジニアをはじめ、みんな何らかの形でジャズに関わっています。
現実の世界で活躍中のジャズミュージシャン、広瀬未来さん、高橋知道さんが実名で登場します。
そして、神戸近郊の中学生・高校生が参加するジャズ・ユース・オーケストラは、ストーリーの中で重要な役割を果たすのです。
市長も、ついでにほんの少しだけ顔を出します。
多くの企業、大学、商店街、行政機関、そして老舗テーラー「柴田音吉洋服店」、楠町の老舗寿司店「鮨いずも」などのお店も、実名で登場します。

ジャズが多くの人々を結び、つなぎ、絆をつくっていきます。
そして、つながりを深めていくのです。
試行錯誤や挫折、行きつ戻りつを重ねながら、登場人物たちは、神戸の街を舞台に互いにつながることによって、未来への力を手にしていきます。
定年退職後、自分で周りに壁をつくり、トラブルも絶えなかった元潜水艦エンジニアは、もう一度好きだったジャズの世界を再発見することによって、若者たちに大きなプレゼントを贈ることになります。
そして、先だった妻への愛情を胸に、人生の終焉を迎えます。
終活のエピソードが関わることによって、物語は一層の深みを増すことになったように感じました。
ラストシーンでは、ビル・エバンスの《ワルツ・フォー・デビー》が奏でられます。


2019年5月31日
から 久元喜造

地方選挙・低投票率の背景⑤


かつて、例えば30年ほど前、郡部において投票率が極めて高かったという事実の背景には、人々にとり、町村役場や町村議会が身近な存在であったということがあるのではないかと思います。(2019年4月25日のブログ
月日は流れ、社会のありようは大きく変わりました。
人の周りに、現実の人間関係の距離に応じて、同心円状に世界が存在しているというモデル(2019年5月16日のブログ)は、おそらくは完膚なきまでに破壊されたのではないかと思います。
その最大の要因が、ネット空間が世界を覆い尽くしてきたという現実にあることは言うまでもありません。
ネット化の進展は、リアルな世界において存在していた人間同士の距離感を根底から変容させました。
遠い世界を近く、身近なものとするともに、かつて現実に存在してきた身近な世界を相対的に遠いものに変えたと思います。
人がスマホなどでネットを通じ、どこにでもアクセスできるようになり、ネット空間に身を置く時間が長くなったことに伴い、現実の身近な世界との関わりは疎遠にならざるを得ないからです。
地方選挙における投票率の低下は、ネット世界の進展と密接に関連しているように思えます。

ネット世界は、いまやリアルな存在となりました。
ツイッターでトランプ大統領といつもつながっている人にとって、すぐ近くにいる市長や議員の方が縁遠い存在になってしまったのかもしれません。
これは残念なことですが、それが現実です。
ネットをツールとして活用しながら、顔の見える地域社会を復権させていくことが、迂遠なようですが、地域社会への関心を高め、地方選挙の投票率向上につながる可能性を有しているのではないかと愚考します。


2019年5月16日
から 久元喜造

地方選挙・低投票率の背景④


1980年代、郡部での投票率は、たいへん高い水準でした。(4月25日のブログ
同じ頃に出版された、京極純一『日本の政治』(1983年 東京大学出版会)には、日本人の伝統的な秩序構造に関する興味深い記述があります。
故京極先生は、日本人が生きてきた伝統的な社会制度の中での人間交際の世界は、自分を中心において四重の同心円で表現できると考えました。
一番中心にある円は「身内」の世界。
母子一体の世界(ウチ)、自分と一体化した家族(マイ・ホーム)、親子、血族の世界です。
その外側には「仲間」の世界があります。
他人の中で「狭い世間」に属する人々がこの仲間に該当します。
「ムラ集合体、町場、市街地の近所合壁や同じ町内など地縁の上で「近い」人々、第二は勤め先集合体、とくに自分と同じ部課の仲間、第三は自営業主、経営者などにとって同業者、業界、あるいは、取引先や企業系列の組織などの人々」です。
ここでは、他人ながら個人識別があり、評判や噂などが伝わります。
外側にある三番目の同心円は「赤の他人」の「広い世間」。
クニ、天下、日本全体です。
そして、さらにその外に海外、外国、世界を示す「広い世界」があります。

近代化は、このような同心円構造を希薄化しましたが、1980年代の政治を考える際、このモデルはまだ有効でした。
この時期の町村は、「仲間」そのものではなかったけれど、少なくとも「赤の他人」の三番目の同心円ではなく、「身内」に近いところにある、顔見知りに近い世間ではなかったかと考えられます。
この時期における、今から考えれば異常に高い投票率は、選挙が身近な世間で起きる重大なできごとだったからだと思われます。


2019年5月6日
から 久元喜造

地方選挙・低投票率の背景 ③


去る4月7日に行われた神戸市会議員選挙の投票率は、全市で、39.98%と、過去最低を記録し、初めて40%を切りました。
区ごとに見てみると、かなり差があるのがわかります。

一番高いのは、須磨区で、43.85%。
次に、北区の 41.89%、東灘区の 40.90% と続きます。

一番低いのは、中央区で、33.52%。
次に、長田区の 36.37%、西区の 39.01% と続きます。

投票率が一番高い須磨区と、一番低い中央区との間では、10.33%もの差があります。
中央区は、とくに近年、人口が増えており、須磨区は、人口減少が目立っています。

8年前の統一地方選挙の年、2011年と、2019年の人口増減率を見てみると、
人口増加率が高いのは、
中央区 8.90%
灘区 2.03%
東灘区 1.92%

人口減少率が高いのは、
長田区 -5.86%
北区  -5.67%
須磨区 -4.68%

こうして見ると、人口増加率が一番高い中央区の投票率が一番低く、人口減少率が一番高い須磨区の投票率が一番高いのですが、ほかの区について見ると、人口増が見られる地域では投票率が低く、人口減が見られる地域では高い、と断定することもできません。
投票率は、それぞれの選挙区の選挙情勢にも影響されます。
ただ、今回、前回、前々回とも、中央区の投票率がいつも低く、全市で最低であることは特徴的です。

投票率の細かい地域毎の状況は、選挙管理委員会から公表されませんが、住民の転出入や高齢化の状況、高層タワーマンションの増加など地域の変容と投票率がどう関係するのか、あるいは関係しないのか、研究者の協力を得ながら、もう少し分析する必要がありそうです。


2019年4月25日
から 久元喜造

地方選挙・低投票率の背景 ②


自治体選挙の投票率は、以前から、郡部などでは高く、大都市部では低い傾向が見られてきました。
自治体の規模が小さいほど、住民との距離が近く、その存在が身近に感じられるからだと考えられます。

私は、1980年代、青森県で選挙管理委員会事務局長を務めましたが、当時の投票率は、とくに郡部で極めて高く、たとえば、津軽地方にあった当時の木造町の町長、町議会議員選挙の投票率は、以下のとおり、90%を超えていました。
町を二分する、極めて激しい町長選挙だったと記憶しています。

木造町長選挙(1983.4.24 執行)95.01% (有権者数 16,963人)
木造町議会選挙(1984.2.26 執行)92.69% (同 15,826人)

木造町は合併し、つがる市になりました。
つがる市の市長選挙は、直近も含めて、無投票が続いています。
直近の、つがる市議会議員選挙(2019.1.27 執行)の投票率は、72.36%(有権者数 28,376人)でした。

大都市部よりもかなり高い水準ですが、旧町のときよりも、20%程度、低下しています。
合併により、市長・市議会との距離が遠くなったからかもしれません。
合併だけが原因であるとは断定できませんが、旧郡部においても、お互いに顔が見えていた地域社会が変容してきている可能性もあります。

4月21日に執行された統一地方選挙では、町村長・町議会議員選挙の投票率とも、過去最低となりました。
投票率の低下傾向の背景には、人々の投票行動に影響を与える構造的な変化があるように思えます。
投票率低下の背景や対応策を含め、各方面から多角的な考察・分析が求められるように感じます。(続く)


2019年4月19日
から 久元喜造

地方選挙・低投票率の背景 ①


自治体選挙の投票率が低下し続けています。
神戸市議会議員選挙の投票率は、39.98%と、40%を割り込み、前回に続き、過去最低となりました。

地方自治への関心の低下を嘆く社説や論説が多い一方、その背景、要因を分析した記事・解説は多くはありません。
そのような中、現場を取材し、要因について触れた記事がありました(朝日新聞 平成31年3月25日朝刊)。

「「住民の声を」形だけでは 低投票率 高砂市から考える」と題されたこの記事では、建設が進む新庁舎の基本設計に関し、市が行ったパブリックコメントが取り上げられていました。
これまでのパブリックコメントに対し「意見ゼロ」が半数以上に上ったことについて、
「説明会や意見公募を形だけ済ませればいい、では逆に市政への無関心を誘発し、投票率の低下にもつながっていく」という専門家の声を紹介しています。
さらに、別の専門家の意見として、「地方衰退と均質化の中で政治的な地域性が失われてきた」こと、「決して政治的な争点がなくなったわけではないのに、(オール与党化などで)争点が見えにくくなった」ことが指摘されます。
そして、「今年2月の沖縄県民投票のように、民意が一顧だにされないような現実を見せつけられれば無力感は強まる」と締めくくります。

この分析について、どう思われるでしょうか?
高砂市での選挙の投票率が低いのは、市のパブリックコメントのやり方が悪いからなのか?
沖縄県の住民投票に対する政府の対応が悪いからなのか?

率直に申し上げて、ちょっと違うのではないかと感じます。
長年続いてきた、地方選挙の投票率の低下には、もっと根本的な要因があるような気がします。(続く)


2019年4月15日
から 久元喜造

熊本地震から3年


熊本地震から、昨日で3年となりました。
神戸市では、地震発生後、直ちに情報収集を開始し、緊急消防援助隊として消防職員が現地に向け出発しました。
関係方面からの要請を受け、4月16日には水道局の応急給水隊を、17日には危機管理室の先遣調査隊を派遣しました。
4月18日、「平成28年熊本地震 緊急応援対策本部」を設置し、各局から次々と職員を派遣しました。
派遣された職員のみなさんは、避難所の運営、健康・衛生面での支援、廃棄物の処理、応急給水、下水道施設の復旧支援、建物の応急危険度判定など幅広い支援業務に従事しました。

任務を終えて帰還した職員から、現地の状況について報告を受けたことを想い起します。
阪神・淡路大震災の災害対応に経験のある職員からは、当時の経験を踏まえながら、必要なアドバイスを行ったとの話も聞きました。
同時に、多くの職員からは、被災自治体で活動する中で生起している事象について、生々しい説明を聞きました。

この3年の間、熊本県内へは、神戸市民や市内企業からの支援も活発に行われてきました。
さまざまな活動に従事し、支援に貢献していただいてきたすべてのみなさまに、感謝を申し上げたいと思います。

神戸市は、今年度、熊本市に1名、益城町に2名の職員を派遣します。
このほか、引き続き、東日本大震災被災自治体の名取市、石巻市、南三陸町に、4名の職員を派遣します。
健康に留意し、復興のために頑張ってほしいと願っています。

神戸市も、熊本市も、震災で大きな被害を受け、試練を乗り越えてきました。
お互いの経験や想いを共有し、議論を重ね、災害への備えを強化していく努力を重ねていきたいと、改めて感じます。


2019年4月12日
から 久元喜造

「役所らしくない」広報願望が墓穴を掘る。


少し前のことですが、防衛省自衛隊滋賀地方協力本部による自衛官募集ポスターが物議を醸しました。
煽情的としか言えないようなデザインが批判を受け、結局は撤去に追い込まれました。
この問題では、セクハラかどうかが議論になったようですが、騒ぎの背景には別の要因があるように思えます。

それは、役所の広報担当者の間に広がる 「役所らしくない」広報をしたいという欲求 です。
マスメディアに取り上げられ、ネットでも話題になることに躍起になり、「役所らしくない」、過激なキャッチコピーやデザインに走る傾向です。

正直、あまり良いことではないと感じます。
過激さを求める傾向は、過激さを競う競争をエスカレートさせます。
全国の自治体が、煽られるかのように「役所らしくなさ」を競い合うのは、滑稽です。
行政の広報には、やはり品位と節度が求められるのではないでしょうか。

そんなに頻繁ではありませんが、「役所らしくないものを考えてみました」と言われ、中身を見ると、首を傾げざるを得ないものもあります。
大事なことは、大手広告代理店の全国画一的発想に踊らされるのではなく、自治体職員が自分の頭で考えることではないかと思います。
神戸市内には、優れたクリエイターやデザイナーがたくさんおられますから、地元のみなさんと自由闊達に議論してみることも大事です。

上の写真は、1月に市役所の市民ギャラリーで開催された展示の模様ですが、伝えたいものがまっすぐに伝わってくる内容でした。
ポスターなどの展示は、中島和也課長をはじめ住宅都市局耐震推進課のみなさんが、神戸の企画会社とコラボして考案したのだそうです。
デザイン的にも優れていると感じました。


2019年4月9日
から 久元喜造

マイナンバーカードをお取りください。


先日の神戸新聞で、神戸市がマイナンバーカード申請を加速させるため、商業施設などでの「出前受け付け」に力を入れていることが報道されていました。
試験的に、ショッピングモールでマイナンバーカード申請を受け付けたところ、かなりの反響があったという記事でした。
兵庫区のショッピングモールに臨時窓口を設けたところ、個人番号通知カードや身分証明などを事前準備する必要があったにもかかわらず、連日、多くの方にお越しいただいたようで、ありがたく感じています。
区役所などでは、顔写真を無料で撮影 し、カード交付の手続きを分かり易く案内していますので、ぜひお越しください。

マイナンバーカードは、是非、取得していただきたいと思います。
ネット社会の進展の中で、さまざまな場面で、マイナンバーが使われていきます。
これからは、就職してから、会社内での手続き、医療、介護などさまざまな分野でマイナンバーが必要になってきます。
本人が本人であることを証明するマイナンバーカードは、あらゆる局面で、ますます重要なものとなっていくことでしょう。
マイナンバーカードを使えば、住民票や印鑑証明といった証明書を、区役所に行かなくても、コンビニなどにある「キオスク端末」で簡単に受け取ることができます。
神戸市では、手数料も窓口の半額(戸籍の証明書は150円引き)にしています。(必要な手続き
区役所などで証明書発行に携わっている職員を、窓口での相談業務に振り向けていけば、一人ひとりの市民のみなさんに寄り添った行政サービスを充実させていくことができます。
マイナンバーカードは、市民のみなさんと行政の双方に、大きなメリットをもたらします。


2019年4月7日
から 久元喜造

湊かなえ『ユートピア』


物語の舞台は、太平洋を望む、人口約7,000人の港町、鼻崎町です。
近隣の大きな市に吸収合併されることなく、町として独立できているのは、日本有数の食品加工会社の国内最大工場があるからでした。
岬に向かう途中には、どの区画からも海を見渡せるように造成された〈岬タウン〉があり、都会から越してきた芸術家などが住んでいます。
古くから町に住み、商店街でお店を営んでいる地元の人たちは、外から移り住んできた人たちの協力を得て、商店街の活性化に取り組みます。
新旧住民が微妙な心理のずれを気にしながらも、地域のためにいっしょになって汗を流す・・・物語は明るい雰囲気で始まるのですが・・・

主要な登場人物は、同じ年代の小学生の女の子を持つ、新旧住民の若い母親です。
帯には、「善意は、悪意より恐ろしい」とありますが、確かに、主要登場人物を含め、物語には悪役は登場しないし、あからさまな「悪意」を示すことはありません。
そして「善意」に基づく行動は、ストーリーの中で重要な役割を演じます。
しかし、むしろ印象的なのは、それぞれの登場人物が相手の気持ちを汲み取ろうとする熱意です。
相手が何を考えているのか、自分の言動に対してどのように感じたのかについて、常に神経を研ぎ澄ましています。
そしてそのような他人の心理への詮索は、ちょっとしたきっかけで疑念を生み、ネット上での書き込みなどを通して不信が芽生え、増幅していきます。

読み終わって何かスカッとするものはないと言ってよいでしょう。
解説では、港かなえさんの特徴の一つとして「いわゆる「イヤミス」と呼ばれる極上の後味の悪さ」が挙げられていましたが、そのとおりだと感じました。