久元 喜造ブログ

指昭博『キリスト教と死』


神戸市外国語大学学長・指昭博先生のご著書です。
あらためてキリスト教の死生観について学ぶことができました。
天国とは何か、地獄とは、最後の審判は何を意味するのかなど、キリスト教の教義をなす基本的な概念が、絵画や壁画、墓標などを交えながらわかり易く説かれます。
煉獄は「最後の審判」を待つ場所であり、煉獄思想はスコラ哲学によって体系化されたとされます。
プロテスタントの教義は、聖書には書かれていない煉獄を認めず、カトリックの世界観と大きく異なっていることが理解できました。

本書の特徴は、誰も経験したことがない死の世界を、葬式、墓、モニュメントなど多角的な視点から具体的なイメージとして提示していることです。
歴史的遺産や慣行などともに、死を可視化しようという試みかもしれません。
「第3章 死をもたらすもの」では、ペストが取り上げられます
指先生が本書を上梓されたときは、まだ新型コロナウイルスは確認されていませんでしたが、当時の人々が今で言う感染症と格闘した状況が語られ、改めてとても興味深く読みました。
指先生のご専門のエリザベス時代には、繰り返しペストの流行があり、ロンドンの劇場は夏場には休業するのが普通で、実際に流行するとすぐに閉鎖になったと言います。
北部の中心都市ヨークなどでも、夏場の祝祭で上演された大規模な市民主体の聖史劇が、16世紀には頻繁に中止されたそうです。
当時の人々は、今でいう感染症の蔓延と隣り合わせに生き、それは日常的な風景であったことが窺えます。
今とは比べ物にならないくらい膨大な死者を出した当時の人々にとり、人の死は、おそらくとても身近な存在であったのではないかと感じました。