久元 喜造ブログ

吉野弘さんの逝去

詩人の吉野弘さんが、1月15日に逝去されました。
いくつかの新聞が、吉野弘さんの追悼記事を掲載していました。

私が始めて吉野弘さんの詩に接したのは、山田中学校3年生のときに受けた国語の授業でした。国語の教科書に取り上げられていたのは、『奈々子に』という詩だったと記憶しています。

国語の担任の先生は、この詩が、作者自身の人生経験に根ざしたものであることを強調していました。きっと、吉野弘さんの生き方に思い入れがあったのでしょう。
「赤い林檎の頬をして 眠っている奈々子」という初めの部分は、その後も、しばらく記憶していました。
そして、長く、この詩のことは忘れていましたが、吉野弘さんの訃報に接し、改めて、本当に久しぶりに、『吉野弘詩集』を紐解きました。1968年(昭和43年)の発行です。

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(中略)

唐突だが 奈々子
お父さんは お前に
多くを期待しないだろう。
ひとが ほかからの期待に応えようとして
どんなに 自分を駄目にしてしまうか
お父さんは はっきり 知ってしまったから。

お父さんが お前にあげたいものは
健康と 自分を愛する心だ。

ひとが ひとでなくなるのは
自分を愛することをやめるときだ。

自分を愛することをやめるとき
ひとは 他人を愛することをやめ
世界を見失ってしまう。

自分があるとき 他人があり 世界がある

そして「お父さんにも お母さんにも 酸っぱい苦労がふえた」と告白した上で、「苦労は 今は お前にあげられない」とし、

お前にあげたいものは
香りのよい健康と
かちとるにむづかしく
はぐくむにむづかしい
自分を愛する心だ。

と、結ばれます。

中学生の私は、おそらく、教科書に載っていた彼の詩に心動かされるものがあり、海文堂かどこかの書店で、『吉野弘詩集』を購入したものと思われます。