久元 喜造ブログ

本庶佑『がん免疫療法とは何か』


ノーベル生理学・医学賞を受賞され、神戸医療産業都市推進機構理事長としてご指導をいただいている本庶佑先生のご著書です。
がんとは何か、から説き起こされ、画期的ながん治療法、PD−1抗体による免疫療法がどのようにして確立されたかについて説明されます。
門外漢の私にとり、すべて理解できたわけではありませんが、PD−1抗体とは何か、それがどのように発見され、試行錯誤を経て免疫療法として使われるようになったかについて、分かり易く説明されています。

PD−1抗体の章の後に置かれているのは、「第3章 いのちとは何か」です。
ここでは、人間を含む生物の生・老・病・死が幅広い文脈の中で語られます。
「第4章 社会のなかの生命医科学研究」では、科学技術政策に関する今日的課題に関するお考えが示されています。
本庶先生によれば、「物理化学の分野では、基本原理が明らかになると、それを実装していくための一定の将来予測が可能」になりますが、生命科学はそうはいきません。
生命科学は、膨大な要素の複雑性・多様性・階層性に関わるからです。
「驚くべき階層性によって保たれた、多重の安全装置を備えたしくみが、まさに「いきる」ということ」だと本庶先生は説かれます。

医学は、一人ひとり異なる遺伝子、それぞれ異なる環境と生活習慣を持った人間に関わります。
医師は、「一般解」ではなく「特殊解」と向き合います。
「生命科学と医療が、一体的に捉えられることで、医療の特殊性ということも十分に評価され、そしてそれを国民が理解し、個人の健康と社会の調和を目指すことが必要である」という本庶先生のお考えは、大きな説得力を持っていると感じました。