久元 喜造ブログ

吉本泰男『航跡遥かなり』

160815
私は神戸で生まれ育ちましたが、40年も神戸を離れていましたので、市長になる前に市役所で仕事をしたのは、副市長を務めた約7か月だけです。
そんな私にとり、市役所OBなど諸先輩からいろいろとお話をお伺いするのはとても有益なひとときです。
神戸市政に関する文献も時間を見つけて読むようにしています。

この盆休みに読んだ本書の著者、故吉本泰男氏は、旧社会党から12期48年にわたり神戸市会議員を務められた方です。
平成19年に逝去され、残念ながらお会いする機会はありませんでしたが、今でも庁内などでときどきお名前を聞きます。

吉本氏の回想録である本書は、冒頭に記されていますように、「原口-宮崎、宮崎-笹山、笹山-矢田、各市長の擁立とバトンタッチのお膳立てをしてきた軌跡」が叙述の中心を占めています。
市長交代の舞台裏はどのようなものだったのか-この部分を拾い読みしようという志の低い動機で本書を紐解いたのですが、読み始めると、たちまち引き込まれ、結局通読することになりました。
戦前、戦中の動乱期の神戸が、吉本氏のご経験を通して描かれ、戦地ニューギニアでの壮絶な体験はあまりにも生々しく、打ちのめされました。

宮崎市長から笹山市長への動きについては、約80頁が当てられ、まさに政治ドラマが演じられていました。
神戸空港や震災時の対応のほか、中央市民病院の移転、阪神水道企業団における水源確保など知らないことだらけで、本当に勉強になりました。
神戸市政の歴史の重みを改めて感じることができたひとときでした。