ニセ作曲家、佐村河内守氏のゴーストライターは、桐朋学園大学非常勤講師の新垣隆氏でした。
自分の作品が、佐村河内守氏の作品と偽って公表されることを承知で、作品を供給し続けていたのでした。
ニセ作曲家が華々しいスポットライトを浴びる一方で、本当の作曲者は長年知られることはなく、受けた利益は、わずかなものでした。
新垣隆氏がどんな気持ちでこのような行為を長年続けてこられたのかは、本人にお尋ねするしかありませんが、おそらくは、複雑な思いであったことでしょう。
あえて想像を巡らせれば、曲をつくる人間が沢山いる中で、自作が公演されることはたいへんむずかしく、マスメディアが喜びそうなストーリーに乗れば、自分の作品が日の目を見るかも知れない ― その有力な方法が、佐村河内守氏の作品として、自作を世に出すことだとお考えになったのかも知れません。
歪んだ楽壇やメディアの姿が厳然としてある以上、その現実を受け入れた上で、自作をたくさんの人々に聞いてもらうために、合理的な方法を選択されたのかも知れません。
そうであれば、新垣隆氏の選択は、形式的には咎められる要因があったにせよ、徹底的に糾弾されるべきことがらではないように思えます。
新垣隆氏の行為に対して、雇い主である桐朋学園大学は「厳正に対処」する方針を打ち出しましたが、学生からは反対の署名運動が起こり、2万人近い署名が寄せられたと言います。
周囲から尊敬される人物だったのでしょう。
もう、第二の新垣隆氏が出現してほしくありません。
音楽作品が、人為的なストーリーに振り回されるのではなく、ありのままの音楽として楽しむことができるような芸術環境を、私たちの社会は獲得したいものです。